https://wired.jp/2019/07/02/microsoft-ebook-apocalypse-drm/

マイクロソフトが電子書籍の取り扱いを停止し、ユーザーに対する返金措置をとった。
これによって購入済みの電子書籍がすべて“消滅”し、ユーザーは別のサーヴィスでの買い直しを迫られる事態になった。
ここで改めて浮き彫りになるのは、わたしたちはデジタルコンテンツを購入して「所有」しているのではなく、
単に「アクセス権」を得ているだけであるという事実だ。過去に繰り返されてきたコンテンツ消滅問題だが、根本的な解決の道はあるのか。

「iTunes」に保存してある映画や「Kindle」で読んでいる本は、正確にはあなたの所有物ではない。
消費者はコンテンツにアクセスする権利を購入したのであり、その権利がいきなり無効になる可能性は常にある。

一方で、実際にそうした事態が起きたことはほとんどなく、この事実に目が向けられることもあまりなかった。
しかし、マイクロソフトの顧客は最近、これまでに購入した電子書籍が一夜にして消滅するという恐怖に直面することになった。

マイクロソフトは今年4月2日、オンラインストア「Microsoftストア」で電子書籍の取り扱いを停止すると明らかにした。
2017年から電子書籍の販売やレンタルを開始していたが、売り上げは伸び悩んでおり、結局は撤退という決断に至ったようだ。
そして、7月に入って、顧客の電子書籍リーダーやコンピューターから購入済みの電子書籍がすべて削除された。

今回ほどの規模ではないにしても、同じようなことは過去にもあった。例えば、アマゾンは2009年に米国の「Kindle」から
ジョージ・オーウェルの『1984年』を一斉に削除した。著作権侵害に当たる可能性があることを受けた措置だったが、何の警告もなく、
書籍内のブックマークやメモも含めてデータが完全に消されてしまったのだ。

その前年には、ウォルマートがMP3の販売システムを刷新する計画を明らかにし、顧客に購入した音楽をすべてCDなどの記録媒体に
バックアップするよう求めている。ただ、こうした動きに備えて事前に対策を立てておくことは不可能だ。

物を「購入」するということ

デジタル著作権管理(DRM)と呼ばれるデジタルコンテンツを管理するためのシステムのせいで、消費者はこうした場合でも補償を受けられない。
マイクロソフトは電子書籍の代金をすべて返金し、ユーザーが書籍にメモ書きや印をつけていた場合は、そのデータが消えてしまうことに対して
25ドル(約2,700円)を支払うとしている。ただ、そんなものは大した慰めにはならないだろう。

ケース・ウェスタン・リザーヴ大学の法学部教授アーロン・ペルザノウスキは、「この場合は少なくとも、書籍に費やした代金は取り戻せるわけです」と話す。
「ただ、消費者はお金よりも買った商品のほうを欲しいと思ったからこそ、それだけの金額を支払ったのです。物を購入するというのはそういうことですから」

ペルザノウスキには『The End of Ownership: Personal Property in the Digital Economy』(所有の終焉:デジタルエコノミーにおける個人の財産)
という著作があるが、「返金だけでは消費者の損害を十分にカヴァーすることはできないと思います」と付け加える。

マイクロソフトから電子書籍を買った人は、それほど多くはないのだろう。ただ、顧客は同じ本をどこか別の場所で見つけ、再購入しなければならない。
場合によっては、電子書籍リーダーを買い直す必要すら出てくるかもしれない。

浮上しては立ち消えるDRMへの不満

また、例えば研究者や弁護士などにとって、自分で書いたメモや印といった情報は非常に重要で、25ドル程度であきらめがつくようなものではない。
今回は影響がなかった人でも、「こんなことはおかしい」と思うはずだ。

NPOのフリーソフトウェア財団のジョン・サリヴァンは、「取引が成立したら、たとえ返金するとしても一方的に商品を返してくれと要求することはできません」と言う。
「それは個人の自由の侵害に当たります」

マイクロソフトの広報担当者に連絡をとったところ、書籍データの削除や補償などの詳細は「FAQ」のページを参照してほしいと言われた。
ここには「お客様の書籍はMicrosoft Edgeから削除されます。マイクロソフトは同時に返金手続きを行います」と書かれている。
返金時期は「7月初旬」ということになっている。