史上最悪の原発事故と言われている1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故では、
大量の放射性物質が大気中に放出され、事故対応にあたった作業員や付近の住民に大勢の被爆者を出す結果となった。
一部の人たちは、ほんの数分のうちに致死量を超える放射性物質を吸収し、数ヶ月のうちに死亡。

また数年をかけて長く後遺症に苦しんだ人たちもいた。
決して忘れてはいけない、人類全体への教訓だ。
 
この事例が示すように、人は放射線に対してまったく無力だ。
急性の放射線障害に対する治療は限られたものしかなく、しかもそれらは特定の元素やアイソトープにしか効かない。

特に原子炉で一般に使われているウランは厄介で、骨や腎臓に蓄積され、周囲を破壊し続ける。
だが今回研究発表された化合物は、ウランを安全かつ効果的に体外に排出させることがマウス実験で明らかになったという。

放射性中毒の治療には「キレート剤」という化合物を用いる。
キレート剤自体は特に目新しいものではなく、血液、植物、石鹸など、そこいらじゅうに含まれている。

なにせビタミンB12自体がキレート剤だったりするくらいだ。
これには電荷を持つ金属分子と結合する性質があり、放射線中毒の治療薬として使えば、プルトニウム、アメリシウム、キュリウムといった放射性金属と結合して、尿や便として体外に排出する手助けをしてくれる。

だが原子力発電所の原子炉で一般に使われているウランだけは別だった。
これを効果的かつ安全に排出してくれるキレート剤がなかなか見つからないのだ。

従来発見されていたいくつかのキレート剤は、ウランを取り除くことができたとしても、腎臓、肝臓、脾臓といった臓器に深刻な副作用を引き起こしてしまうものだった。
あるいは、そうした副作用がないものであれば、特に骨や腎臓に含まれるウランの除去効果の点で今ひとつだったりと、思うように行かなかった。

特に最後の点は重要なことだ。
なぜなら排出されない放射性物質は、結局そのままそこに残ってしまうからだ。
ウランのほとんどは骨や腎臓に蓄積されるのだが、そこにある限りは周囲を破壊し、がんを生じさせる。

だが『Nature Communications』(6月25日付)で発表された化合物を使えば、ウランによる放射線中毒はいずれ治療可能になるかもしれない。
中国科学院大学、東呉大学、コロンビア大学の研究チームが開発したのは、「5LIO-1-Cm-3,2-HOPO」という化合物だ。
マウスによる実験では、これまでのウラン向けキレート剤の欠点を克服し、ウランを安全かつ効果的に体外に排出させることができた。

マウスをウランに暴露させ、その3分後に新型キレート剤を注射すると、腎臓では84パーセント、骨では43パーセント、ウラン濃度が低下した。
経口で投与した場合でも、それより効果は落ちるが、腎臓と骨でそれぞれ63パーセントと35パーセント低下した。
また暴露直後ではなく、6・12・24時間にキレート剤を投与した場合でも、腎臓では60パーセント以上、骨でも最大40パーセントのウランが除去された。

あくまでマウスによる実験であるが、将来有望な結果だ。
原子力発電所の是非はさておき、今現実に稼働し、そこで作業する人や周辺で暮らしている人がいる。
そうした人たちが少しでも安心できるよう、またいざというときに危険な目に遭わないよう、きちんとした治療法が確立されることを期待したい。

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