安倍氏へのヤジは「演説妨害」だったのか 札幌「排除」問題
2019/7/20 17:30

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一方、弁護士法人・響の藤田圭介弁護士は聴衆が演説を妨害したとは言えないと思われるとして、警察の行為を「不当な弾圧ととられかねない」と指摘する。元北海道警察警視長の原田宏二氏も「野次すら言ってはいけないのであれば、民主主義は成立しない」と強く問題視した。

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別のある女性はこの歩道の後ろにある広場で、「増税反対」と何度も叫んだ。同様に警官5〜6人に取り囲まれ、後ろへ移動させられた。いずれも拡声器や楽器などの道具は使っていなかった。集団でもなく、それぞれ1人での野次だった。

表現の自由への権力による不当な弾圧」と見る専門家も

だが、弁護士法人・響の藤田圭介弁護士は、今回の警察の行為について次のように「不当な弾圧ととられかねない」という見方を示す。

「確かに、公職選挙法225条2号では、『演説を妨害』した場合は、選挙の自由妨害罪にあたるという規定はあります。

しかし、判例上、同条の『演説を妨害』といえるためには、他の野次発言者と相呼応し、一般聴衆がその演説を聞き取り難くなるほど執拗に自らも野次発言あるいは質問などをなし、一時演説を中止するも止むなきに至らしめることが必要であるところ、本件の聴衆の男性が『安倍やめろ』と野次を繰り返し飛ばした行為や、聴衆の女性が『増税反対』などと叫んだ行為は、単独でかつ肉声のみで行われた行為であることからすると、『演説を妨害』したとはいえないと思われます。

今回の『強制退去』に関しては、法的根拠に基づかない、一般市民の表現の自由への権力による不当な弾圧の可能性があります」。

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「明らかに警察の政治的中立性が形骸化している」

また、他の政党・議員・候補者の演説と比べても、警察の対応には疑問が残るという。

「警察の活動は行政活動にあたることから、平等原則(憲法14条1項)が妥当し、合理的な理由がない限りは、平等に規制を行わなければなりません。そのため一般論として、他の政党・他の議員・他の候補者の選挙演説中に同様の野次が飛んだ場合でも、同様に警察によって強制移動させられると考えるのが通常の考え方です。

しかしながら、7月12日の共産党候補の応援に山本太郎・れいわ新選組代表が駆け付けた街頭演説において、拡声器を持って批判的発言をしていた男性がいたにもかかわらず、警察は強制移動させないどころか、一切注意をしなかったという報告がSNS上で多数なされました。

このことが事実だとすると、警察は安倍首相の演説のみを擁護し、他の政党・他の議員・他の候補者の演説を擁護しようとしていないことがうかがえ、この取り扱いも首相だからというだけで合理的理由は認められません。警察の政治的中立性が形骸化していると疑われます。

このような首相の演説に対する批判的発言のみが規制されるということになると、一般市民の表現の自由が侵害され、首相に対する抗議ができず、最終的に国民主権・民主主義という憲法の基本的価値が崩壊してしまいます」(藤田弁護士)
その上で藤田弁護士は、警察の行為が上記「特別公務員職権乱用罪」に当たる可能性もあるという見解を示した。

「同罪の『濫用』にあたるというためには、警察官が、その一般的職務権限に属する事項につき、職権の行使に仮託して実質的、具体的に違法、不当な行為をすることです(最高裁決定・1982年1月28日)。

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元道警警視長で選挙対応の責任者を歴任してきた原田宏二氏は、J-CASTニュースの取材に「今回の警察の行為は法的な根拠を欠き、違法だと思います」と話す。

「映像を見る限り、野次をしていた人の脇を両側から抱え、複数人で連れ出したと見え、明らかに強制力を行使していると思います。このようなケースで考えられる警察の強制力は、警察官職務執行法5条が定める犯罪予防のための警告・制止です。これに該当する状況だったかを考えてみます。

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複数の県警で捜査二課長(選挙違反の取り締まりなどを所管)をつとめたほか、警察署長や方面本部長などの立場でも選挙違反事件を指揮してきた原田氏は、自身の経験に照らして「選挙演説をしているのが与党か野党か以前に、警察がこのような監視や取り締まりをするべきではない」とする。

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「警察の監視下で選挙が行われているような現実」

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北海道警察本部広報に、今回の警察の行為に対する見解を改めて聞いたが、「本件については回答していない」とするにとどめた。

https://www.j-cast.com/2019/07/20363091.html?p=all