島根大学は、去年8月、松江労働基準監督署から深夜・休日の賃金未払いがあったのは労働基準法に違反するとして是正勧告を受けました。

労働基準監督署は「自主的な研さん」であっても「勤務」であり、深夜や休日の「割増賃金」が支払われるべきだとしたのです。

大学が調べた結果、過去2年間に未払い賃金があったのは松江キャンパスの教員の半数以上のおよそ200人で、総額はおよそ9000万円に上りました。

ただ、島根大学の例は決して特殊なケースではありません。
同じ国立大学では香川大学が約2500万円、私立では松山大学が約1億円、未払い賃金があったのです。

いま、各地の大学に相次いで是正勧告が出されています。
「裁量労働制」とは…
大学で何か起きているのか。
取材を進めると背景に「裁量労働制」と呼ばれる働き方があることが分かってきました。

「裁量労働制」は、仕事の時間配分などの裁量を労働者にゆだねる制度で、大学教員をはじめ、弁護士、コピーライターなど19の専門的業務などが対象です。

実際に働いた時間に関係なく、一定の時間働いたものとみなし、賃金が支払われます。いわゆる残業代などはありません。ただ、無制限の長時間労働になってしまうと健康被害のおそれが高まります。

このため、導入には、労使間でさまざまな取り決めが必要となります。

島根大学でも、
▽午後10時から午前5時までの時間帯や休日に勤務する際には、事前に学部長などの許可をとること、
▽この時間分の割増賃金を大学が支払うこと、
などが定められていました。

ただ、大学側は「自主的な研さん」はその例外として許可は必要ないとし、一部の教員も、許可なく土日に大学で研究を行っていました。

大学、教員、双方了解のうえで行われていた“勤務ではない研究”。
ここにメスが入ったのです。

是正勧告を受けて、島根大学は「自主的な研さん」であっても事前の許可が必要だと改めました。

教員の自己申告で勤務時間を把握するのではなく、IDカードで出勤・退勤の時間を管理する方法も取り入れました。こうした取り組みで、勤務実態を正確に把握しようとしています。

島根大学はNHKの取材に対し「労働基準監督署からの指導を受けて適切に対応している」としています。
無報酬で働く理由
なぜ、”勤務ではない研究”を行うのか。
取材に応じた教員にさらに問いを重ねると、その理由を聞くことができました。
「休んでいると、世界のどこかで自分と同じ事をしている人がいるのではないかと不安。少しでも研究を進めたいので、土日も出ていました」

「研究は仕事ですが、一方では趣味であり生きがいです。やらされているのではなく好きでやっているのです」
研究の計画も健康管理も個人の責任の範囲。
自分の意志で、好きで研究を行っているため、勤務とは考えていないというのです。

さらに、この教員は、もう1つ大きな理由を挙げました。

これは島根大学のような国立大学法人に限った話ですが、こうした大学は文部科学省から「運営費交付金」を受け取り、研究費や人件費などに割りふっています。

全文
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190820/k10012042101000.html?utm_int=all_side_ranking-social_001