前略

「LGBT(LGBTQ)という言葉は知っているけれど、詳しくは分からない」という人も多いのでは? まずは、私たちを取り巻くLGBTQの現状を知ることから始めましょう。

今、日本でLGBTQ層に該当する人は13人に1人といわれ、さらに最新の調査では「人口の8.9%、11人に1人」という結果もある。「これは左利きの人とほぼ同じ割合」と、電通ダイバーシティ・ラボ代表の伊藤義博さんは解説する。ただし、成蹊大学非常勤講師の石田仁さんは、この数値は「あくまでインターネット調査会社の回答者のなかでの割合とみなすべき。既に行われている性行動や性意識の調査では1〜5%程度」と指摘する。

とはいえ、「顕在化していないだけで、周りに一定数の当事者がいる」という事実に変わりはない。「性は多様で揺らぎがあるため、数値だけでは測り切れない」と、虹色ダイバーシティ理事長・村木真紀さんは言う。社会学者の水無田気流さんも「男性と女性という2項対立ではなく、グラデーションと考えるべき。より細かく自分にフィットするジェンダーを手に入れられる社会になれば、皆が生きやすくなると思う」と提言する。

識者たちがそろって指摘するのは、法整備の重要性だ。「差別禁止法や同性婚などの法整備が進まない限り、LGBTが抱える差別や偏見といった本質的な問題は解決しません」(石田さん)。大切なのは、互いの違いを認めて、誰もがハッピーに暮らせる社会。「LGBTが生きやすい社会は、すべての人にとって生きやすい社会につながるはずです」(村木さん)

■LGBTQ
「LGBT」はレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字を並べた言葉。「LGBTの人々」などのように、性的マイノリティーの総称として使われる。近年、多様なアイデンティティーの広がりにつれて、「LGBTQ」などと表記することも多い。

【L=レズビアン】性自認が女性で、性的指向が女性に向く人。
【G=ゲイ】性自認が男性で、性的指向が男性に向く人。
【B=バイセクシュアル】異性を好きになることもあれば、同性を好きになることもある。性的指向が男女どちらにも向く人。男女の区別そのものに疑問を呈する意味で、「パンセクシュアル(全性愛)」とも。
【T=トランスジェンダー】身体の性別(多くの場合は解剖学的な性別)に沿って出生届などで指定された社会上の性別と、自認する性別とが一致しない人。または、より積極的に既成のジェンダーのあり方に疑問を抱き、それを超越(トランス)しようとする人。対義語は「シスジェンダー」。
【Q=クエスチョニング】性別、性的指向、性自認、ジェンダー表現、どれか1つ以上の部分で、自分の性を決められない、決めたくないという状態にある人のこと。

【1】LGBTQの人たちは13人に1人、11人に1人とも
LGBT 総合研究所(博報堂DYグループ)や日本労働組合総連合会の2016年調査によると日本のLGBT層(LGBTなどの性的マイノリティー層)の割合は8.0%で「13人に1人」が該当する。電通ダイバーシティ・ラボが実施した最新の「LGBT調査2018(*1)」では、日本のLGBT層の割合は8.9%で「11人に1人」という数字だ。これは、たとえ存在が見えなくても「身近に確実にいる」ということを示している。数値が高い割に顕在化しないのは、「カミングアウトしづらい職場環境のほか、偏見を持たれそう、理解してもらえないと思う、といった理由が多いようです」(伊藤義博さん)

(*1):電通ダイバーシティ・ラボが2018年10月26〜29日にインターネットで調査を実施。20〜59歳の6万人にスクリーニング調査を行い、全国6229人(LGBT層該当者589人/ストレート層該当者5640人)から回答を得た。



【2】カラダの性×心の性×好きになる性、「性」は多様で「グラデーション」
LGBTを理解する上で大切なのが、性を「男か女か」の2者択一で考えないこと。身体的な「カラダの性」、自分自身が性別をどう思っているかという「心の性」=性自認(GI)、「好きになる性」=性的指向(SO)の3つの組み合わせを軸に、衣服やしぐさ、言葉遣いといった「性表現」など、多様な組み合わせで構成される。そのため、「グラデーションのようなもの」と表現されることも。「成長段階で定まる人、揺らぎ続ける人とさまざま」(石田さん)

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