高齢者の増加とともに、今後さらに増える見込みの認知症。根本的に治す薬を世界が渇望し、研究者や製薬会社が競争を繰り広げるが、開発中止が相次ぐ。世界初の根本治療薬はいつ登場するのか、注目が集まっている。

 「認知機能の指標で悪化が確認された」。7月、ノバルティス社などは、3段階ある臨床試験(治験)の最終段階、第3相試験に入っていたアルツハイマー病治療薬候補「CNP520」の治験中止を発表した。3月には、エーザイが、治療薬候補「アデュカヌマブ」の治験を中止すると発表したばかり。ある研究者は「固唾(かたず)をのんで結果を待っていたが、失敗が相次ぎ、製薬業界の元気がなくなっている」と話す。

 米国研究製薬工業協会(PhRMA)の報告書によると、2017年までの20年間で146の薬剤候補が開発中止に。このうち、根治をめざすものは約4割で、50件を超すことになる。また、約2割は第3相試験に進んでいた。

 認知症の患者は世界に約5千万人、日本国内に約500万人いるとされる。その7割を占めるアルツハイマー病は、脳の中に「アミロイドβ(Aβ)」というたんぱく質が蓄積し、神経細胞が徐々に壊れることなどが、原因と考えられている。

 現在、治療に使われているのは、神経伝達物質の分解を妨げて神経の働きを活発にさせることで症状の改善を狙う薬。国内では11年までにアリセプトなど4種が承認されている。

 認知症患者の増加に伴い、さらに高い効果を求める声は次第に強まっている。13年に英国で開かれた主要8カ国(G8)認知症サミットで、各国閣僚が「25年までに根本的な治療法を見いだす」と共同宣言を出した。根本治療薬とは、Aβの蓄積を防いだり除去したりして進行を抑えるものだが、いまだ承認に至ったものはない。

 10年代に入り、ファイザーやロシュ、イーライリリーなど巨大製薬企業が相次いで治験の中止を発表。治験に参加し薬を使った人と、そうでない人を比べ、期待した効果がみられなかったり、薬を使った患者のほうが認知機能が低下していたりしたためだ。脳に浮腫が起きるなどの副作用もみられた。

 国立長寿医療研究センターの柳沢勝彦・研究所長は開発が進まない理由について、脳内でAβがたまり始めてから症状が出るまでに長い時間がかかることをあげる。「神経細胞が壊れてから蓄積したAβを取り除く薬を使っても、遅いとわかってきた」と話す。

 米ネバダ大ラスベガス校の研究によると、19年2月時点で、治験の最終段階に入っている根本治療薬の候補は17種。今後、数年で結果が出てくるとみられる。ほかにも第1、第2段階の候補は60種類以上ある。7月中旬に米ロサンゼルスで行われた国際学会でも、治療薬候補の承認申請見通しについて発表があった。

 アリセプトを開発したエーザイ…

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