現代の日本は、非正規雇用の拡大により、所得格差が急速に広がっている。
そこにあるのは、いったん貧困のワナに陥ると抜け出すことが困難な「貧困強制社会」である。
本連載では「ボクらの貧困」、つまり男性の貧困の個別ケースにフォーカスしてリポートしていく。

今回紹介するのは「学習塾で教室長をしています。休みは日曜日のみです。
出身大学は有名私立商学部なのですが学習塾でしか職がありません」と編集部にメールをくれた、41歳の男性だ。

「出身大学は有名私立商学部なのですが、学習塾でしか職がありません」

ユウジさん(仮名)が編集部に送ってくれたメールにはこう書かれていた。年齢は41歳だという。就職超氷河期真っただ中の世代である。
今年6月、政府は「骨太の方針」に、この世代を対象にした就労支援計画を盛り込んだ。なんて“タイムリー”なんだろう――。

就職氷河期世代には違いないが…

私が早速、就職活動中の苦労や、働き始めてからの経験について尋ねようとすると、ユウジさんが少し申し訳なさそうにこう言った。

「僕、氷河期世代じゃないんです。大学、入り直しているんで……。
その後、卒業するのにも7年かかってますし。大学を出たときは、30歳を超えていました」

埼玉県内の地方都市で生まれ育ったユウジさんは、公立の進学高に進み、3浪した後、地方の私立大学に入学。
しかし、すぐにその私大を退学し、再び数年間の浪人生活を経て慶應義塾大学商学部に入り直した。
ただ、浪人生活中に患ったうつ病のせいで、思うように授業に出席することができず、卒業まで時間がかかってしまったのだという。

「もともと学校の勉強は楽しかったんです。試験前は、普通に1日15、6時間は机に向かっていたし、成績はいつも学年1桁以内。
だから、(当時は)プライドもすごかったと思います。(最初の)私大に入っても、
『俺は、こんなもんじゃない』という気持ちがあって……。慶應に合格したときは、すごくうれしかったです。

でも、大学では親しい友達ができませんでした。原因ですか? 年齢のせいだと思います。
病気もあって、あまり授業にも出られなかったし。試験前にノートを貸してもらえるような友達もいなくて、気がついたら、7年間在籍していました」

さらに、不運なことに、ユウジさんが大学を卒業したのは2009年、リーマンショックの翌年だった。
2000年代半ばから、一時的に売り手市場に戻っていた就職状況は、再び氷河期時代に戻ってしまった。

ユウジさんは大手商社への就職を希望したが、ほとんどの会社で面接にさえ進むことができなかった。
職種を広げたものの、連戦連敗。学内の就職相談窓口で、担当者から「あなたの年齢では、正社員の内定はもらえませんよ」と言われ、ショックを受けたという。

「商社を希望した理由は、とくにあるわけじゃないんです。
響きというか、イメージというか。同級生たちが『○○は丸紅から内定が出た』『電通に受かったよ』と話しているのを聞いて、自分もそういうところに就職するんだろうと、漠然と思っていました。
世間知らずと言われるかもしれませんが、年齢がネックになるなんて、思ってもみませんでした」

その後、周囲から「学歴にあぐらをかくな」「受験勉強なら人一倍経験しているだろう」などとアドバイスされ、ハローワークを通して、学習塾への就職を決めた。

しかしユウジさんによると、これまで働いてきて学習塾は、いわゆる“ブラック企業”が少なくなかったという。

https://news.livedoor.com/article/detail/17132332/
2019年9月25日 5時20分 東洋経済オンライン