火山は意外なところで、意外なものを生み出すようだ。このほど発表された理論では、太陽系が形成された当初に存在した「微惑星」と呼ばれる天体に、溶融した鉄とニッケルを噴き出す火山があったかもしれないというのだ。そして、こうした火山の噴火が、石鉄隕石(せきてついんせき)と呼ばれる、美しいが謎ばかりの隕石の形成過程を説明できる可能性ももつという。

 注目の理論は、天文学の専門誌「Nature Astronomy」に2019年9月16日付けで発表された。この理論モデルは、直径約280kmの小惑星「プシケ」の奇妙な特徴も説明できると期待されている。NASAは2022年に小惑星探査機プシケ(英語読みでは「サイキ」)を打ち上げ、探査機は2026年に小惑星に到着して、詳細な地図を作成する予定になっている。つまり、順調にいけば10年以内に検証できる。

 NASAのプシケ・ミッションの主任科学者である米アリゾナ州立大学の惑星科学者リンディー・エルキンズ=タントン氏は、「この研究が発表されて本当に良かったです。彼らが計算してくれなかったら、私たちが自分でやらなければならなかったですからね」と話す。

 論文の筆頭著者である米パデュー大学の惑星科学者ブランドン・ジョンソン氏は、「プシケ・ミッションには大いに期待しています。小惑星プシケを、夜空の光の点としてではなく、実在する物理的な天体として考えるのは楽しいことです」と言う。「プシケ・ミッションが何を発見するにしても、非常に興味深いものになるのは確実です」

■金属光沢の正体

 プシケの表面をレーダーで測定した結果は、この小惑星が金属のような滑らかな光沢(金属光沢)があることを強く示唆している。科学者たちは、その光沢が、微惑星(誕生したばかりの太陽系内で多数形成された小さな天体)の中心部のコアが露出したものではないかと考えている。これまでの仮説では、誕生当初のプシケは鉄とニッケルからなるコアと岩石からなるマントルをもっていたが、初期の無秩序な太陽系の中でほかの微惑星と衝突を繰り返すうちにマントルを剥がされてしまったとされていた。

 しかし、2017年以降、プシケの体積に関する2つの研究から、この小惑星の密度が約4.2g/cm3で、中心まで鉄とニッケルの塊だった場合に予想される密度より約45%も低いことが明らかになっている。プシケが金属だけでできているなら、穴だらけでスカスカということになる。もう1つの可能性は、表面は金属からなるように見えても、岩石からなるマントルが残っているということだ。ただ、だとすれば、表面がコアに似るのはなぜなのかという疑問が残る。

 エルキンズ=タントン氏は、「岩石のみからなるにしては密度が高すぎ、金属のみからなるにしては密度が低すぎるのです」と言う。「いったい何なのでしょう?」

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