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ピンポン球の“魔球”をカラーバットで打ち返す。童心に帰ったようなスポーツがじわりと人気を集めている。その名も「ピンポン野球」。
体育館を借り切り、大の大人たちが勝負に一喜一憂する一方、けがなく楽しめるのも魅力。関係者は生涯スポーツとしての普及も視野に、
世界へ広げていく構想も描いている。

低めからホップする「体感速度150キロ」のストレートに、打者の背中越しに鋭角に曲がるスライダー。
ナックルボールは空気抵抗を受けて落差を増す。

子どもの頃、学校の片隅でほうきをバットに代えて遊んだ、あるいはそんな男子の姿を一度は目にしたことがある人は多いかもしれない。
今、それが競技に昇華しようとしている。

卓球のボールとプラスチックバットを使うこのスポーツでは身体能力に関係なく、誰もが主役になれる可能性を秘めている。
「元プロ野球選手が体験したこともあるが、最初は戸惑っていた。逆に、野球経験がない人が好投手になることもある」。
2014年にピンポン野球連盟(三重県)を立ち上げた平田小次郎理事長(62)=横浜市保土ケ谷区在住=が言う。

バッテリーとレフト、ライトの4人チームで基本的なルールは野球と同じ。投手が投げ、打者が打つ。ゴロでも野手が捕球すればアウトだ。

異なるのは両翼18メートル、中堅20メートルのフィールド。ホームから12メートル、16メートルなどに「塁打線」が引かれ、
投手は10・5メートルの距離で打者と対峙(たいじ)する。走者は置かず「透明ランナー」。プラスチックバットにスポンジを巻き付けた
特製バットで放った打球が、どの塁打線を越えたかで進塁先を決める。

作り込まれたルールでの真剣勝負。根底にあるのはかつて庭先でピンポン球を使って野球のまねごとに興じた原体験だ。
壮年期を迎え、健康づくりにスポーツをと考えた際、幼年期の思い出がよみがえった。

「いとこの兄ちゃんとやったのが楽しくて、ずっと忘れられなかった」。もう一度、ピンポン球とプラスチックバットを取り出してみた。

最初は一人でティー打撃を繰り返していたが、近所のお年寄りらに声を掛けた。さらに会員制交流サイト(SNS)などを通じて仲間を集めた。
たった一人のティー打撃は連盟結成にまで拡大。ようやく大会を開けるようになった。

平田理事長は「今では東大や立命館大にサークルができるなど若い世代が一緒にやってくれている。彼らはガチ。動画をアップしたり、
公認規則を作ろうとしたりどんどん輪を広げてくれる」と目を細める。

3日には県立保土ケ谷公園体育館(横浜市保土ケ谷区)で県内外からチームが参加した大会を開催する。
大手卓球メーカーが試合球を提供するなど、認知も広がる。

もっとも、目指すのは競技志向だけではない。当たっても痛くないピンポン球。走る必要がないなど、老人施設や福祉施設での普及や、
子どもたちに野球の「入り口」として体験してもらうなど、レクリエーションとしても幅は広がる。「老若男女が楽しめるスポーツ。
ゆくゆくは海外にも広めていきたい」と平田理事長。直径4センチの球に夢が詰まっている。


プロ顔負けの剛速球や切れ味鋭い変化球で戦いは白熱する(ピンポン野球連盟提供)
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