メディアでお坊さんを目にすることが断然、増えた。テレビのバラエティー番組にはさまざまなタイプの僧侶が登場、新聞や雑誌でも特集が組まれ、各地で開かれる仏教イベントも人気がある。

 お坊さんの社会進出ともいえる近年の現象は、若手にその傾向が顕著であり、背景には2012年の「未来の住職塾」(松本紹圭塾長)の誕生がある。経営の視点を取り入れながら、寺の在り方や地域社会との関わりを議論し学んできた受講生は7年間で600人を超え、地域やメディアで活躍する僧侶を輩出した。

 宗派を超えたネットワークを構築してきた住職塾はこの秋、時代の変化に合わせた「未来の住職塾NEXT」を開講。初回は東京で開かれた。

 会場は、インドで経営学修士(MBA)を取得した松本さんが僧侶として所属する浄土真宗本願寺派の神谷町光明寺。境内の一部を以前から開放している「神谷町オープンテラス」は、松本さんが仕掛け人だ。お弁当を食べる人、のんびりと昼休みを過ごす人…。都心のビル街の癒やし空間として完全に定着したテラスは、お寺活用の成功モデルとして知られる。

 憩う人々の姿を横目で見ながら本堂へ入ると、全国から集まった十数人の受講生が。僧侶だけではなく、今回のNEXTには神道関係者もいる。視点の多様化を図る狙いらしい。講師は商社勤務の経験があり、経営コンサルタントなどを務める木村共宏さん。松本さん同様、本願寺派の僧侶である。

 第1回のテーマは「方向性を定める」で、講義ではカタカナのビジネス用語が飛び交う。受講生によるグループディスカッションのお題は「ミッション」。この場合は「使命」と訳すのが妥当か。寺の永続性と固有性とは何かを考える場だ。

 討議の中身を付箋紙に書き、次々と模造紙に貼っていく。「仏法に基づく実践が行われる」のが寺の使命だと受講生が語ると、講師の木村さんは「今の一般の人にとって、仏法って必要なものでしょうか?」。

 投げかけられる問いは根源的であり、意表を突く。ただ、専門用語や前提をいったん傍らに置くことで、心に不安や迷いを持つ人々といかに向き合うのかを巡るやりとりへと発展していく。

 顧客が望むものをつくる「マーケットイン」、つくり手がいいと思ったものを売る「プロダクトアウト」。商品開発に関するビジネス用語を用いた議論も始まった。仏教界の慣習や思考からあえて切り離す試みは、地域や檀家(だんか)と寺の関係を異なる視点から明確化する。受講生による熱心な議論は夕方まで続いた。

 核家族化の進行で「家」意識が希薄になり檀家制度が揺らぐ。通夜や告別式を行わず火葬だけで別れを済ませる直葬が広がり、葬式や墓の不要論も飛び出す。地方は過疎化にも直面する。寺の維持は厳しさを増している。

 次代を担う若手住職、後継者の危機感は強い。そんな中から「未来の住職塾」は生まれた。寺院の将来を見据えた計画が錬られ、これまでにない横断的なつながりが新しい活動も創出してきた。

 もちろん、目が覚めるようなアイデアは簡単に出ない。ただ、受講生たちの使命や将来像を巡る議論を聞くのは、実に気持ちが良く、ライブ感に満ちた探求の場を実感する。講座が終わり本堂から出る頃は、すっかり日も落ちていた。

 人の気配の消えたオープンテラスに立つ。外界と寺を隔てる木々の手前に墓が広がる。生死が交錯する静かな空間。見上げると、ライトアップされた東京タワーが暗夜に輝いていた。

2019年12月10日 午前11時30分
https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/989972
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