市民も議論に加わって2年余の歳月をかけてつくった条例を、実質数時間の審議で廃止決定したやり方は、あまりに性急で乱暴だ。

 石垣市自治基本条例を廃止する条例案が、与党議員によって市議会に提出された。16日の最終本会議で採決される。

 「自治体の憲法」とも呼ばれる自治基本条例は、住民が目指す町づくりや行政と住民の役割分担などを定めたもので、石垣市は県内でいち早く2009年に制定した。43条からなる条例には、市民の権利や責務、住民投票制度などが規定されている。 

 全国では370を超える自治体で制定が進み、これまで廃止したところはない。

 与党市議で構成された市議会の調査特別委員会が条例を「廃止すべきだ」との結論を出したのは先月末。委員らが問題にするのは「市内に住み、または市内で働き、学び、もしくは活動する人」(2条)とする市民の定義である。

 人手不足などを背景に日本で働く外国人が増えていることも影響しているのだろう。住民登録のない外国人まで「市民」になり得ることに疑義が集中したという。

 しかし地方自治法でいう住民は、その自治体に住所を有する者で、外国人も含んでいる。住民登録の有無は関係ない。

 外国人受け入れが拡大し、多文化共生に向かう流れの中で、むしろ異文化を持つ人々が町づくりに参加することで地域は豊かになる。逆に摩擦が生じやすいのは、生活者として迎え入れる配慮を欠き、隅に追いやったときだ。

 払拭(ふっしょく)できないのは、市平得大俣への陸上自衛隊配備計画の賛否を問う住民投票運動を抑え込もうとの動きである。

 住民投票の請求を巡っては、これまで地方自治法に基づく手続きで議会に諮られ否決された経緯がある。

 だがそれとは別に自治基本条例28条は「4分の1以上の連署」で住民投票の実施請求が可能とし、「市長は請求があった時、実施しなければならない」と定めている。

 議会の議決にかかわらず市長には実施の義務があるとされる規定だ。

 有権者の約4割となる1万4千筆余の署名を集めた「市住民投票を求める会」は、この条文を根拠に、住民投票実施を求める訴訟を起こしている。

 自衛隊配備について意思表示しようとする住民投票そのものを葬るのが狙いだとしたら、それこそ住民自治の危機である。

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 陸自配備に関しては「防衛は国の専権事項」との見方もあるが、それは一面的だ。自衛隊基地であれ、米軍基地であれ、地域の暮らしに重大な影響を及ぼす問題に対し「黙っておけ」と言う方がおかしい。逆に基地が集中する地域だからこそ、よほど慎重な対応が求められる。

 廃止を決定した特別委の会合は計5回、わずか5時間ほどだった。本来なら地区ごとに公聴会を開き、住民の声を吸い上げ、判断すべきである。市民への説明なしに廃止することは許されない。
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/510840