SNSを中心に話題となっている「忘年会スルー」問題。その中心にあるのは、「高いお金を払って上司の自慢話を聞きたくない」という「部下側」のもやもやだ。しかし、その一方で管理職側でも忘年会スルーしたい、と思う人が増えている。企業の現場に自ら入り込み、目標を「絶対達成」させるコンサルタントの横山信弘氏が「忘年会スルー」問題に切り込む。

「忘年会スルー」に共感する管理職たち

「同一労働同一賃金の時代に、忘年会の費用を上司が持つだなんて、絶対におかしい!」
 あるクライアント企業の課長から、「忘年会の費用は誰が持つべきか」という質問をいただいた。私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントである。クライアント企業の「業績」のことばかり考えているので、この無邪気な質問には驚いた。

「だって、同じ労働をしたら同じ賃金を払う時代ですよ。派遣社員でも正社員でも、関係なく」
「それもそうですが……」
「なら、同じような食事をして、同じように酒を飲んだら、同じように金を支払わないとおかしいじゃないですか。社長でも、課長でも、派遣社員でも、立場に関係なく」
「いや、しかし……」
私が口ごもっていると、
「そうでないと不公平です! ただでさえ働き方改革の時代になってから、管理職の負担ばかりが大きくなってるんだから」
と課長は言い切った。私は腕組みをして、しばらく考え込んだ。

この課長の気持ちは分かる。なかなか育たず、それでも定時で帰ってしまう部下たちが処理できない仕事を、この課長が日々担っているのだ。どんなに業務効率化しても、課長自身の残業が減る兆しはない。
「仕事の負担も増え、金銭的な負担も増えるだなんて、イヤな世の中だ」
課長はもう一度、力を込めて愚痴った。

「おごる」と、ついつい見返りを期待する?

 昨今、「忘年会スルー」したがる上司も激増している。上司の説教や、自慢話に付き合いたくないと、若い世代の人たちが忘年会を嫌がっているだけではない。
「一応課長だから、部下たちと忘年会をしたら私が払いますよ。2次会も当然、私のおごりです」
先述した課長の嘆きはつづく。

「でも、おごったって、何の見返りもない。上司が部下におごるのって、義務なんですかね。部下の残業分まで仕事してるっていうのに」
 そう嘆くのもムリはない。相手の喜ぶ顔がみたい、自身の甲斐(かい)性を見せたいという欲求から、誰かにおごりたいという気持ちが芽生えるのは自然のこと。
 とはいえ「おごる」側は、無意識のうちに等価交換を考えてしまうことがある。等価交換とは、同等の価値があるものを相互交換することだ。どんな事情であれ、おごった側は、知らず知らずのうちに「見返り」を期待する心理が働くものだ。

おごられ続けると「当たり前」に

 「同等の価値」を要求しなくとも、上司が少しばかりの期待をいだくことは自然だ。特に「おごり慣れていない」人は意外と、そのような心理に陥ってしまうことがある。
 しかし、部下にとって「見返り」を期待されて「おごられる」のは、あまり気持ちがいいものではない。だから「おごる」側は“ギブ&テイク”を考えずにおごった方がよいと私は思う。
 ところで、覚えておいてほしい心理現象を紹介する。
 それは「刺激馴化」だ。刺激馴化とは、ある刺激を受け続けると最初に受けた反応が徐々に鈍くなっていく現象のことを指す。「おごられる」側は、最初のうちは感謝しているが、同じ相手におごられ続けると、その感謝の気持ちが徐々に薄れていく。そのため、次第におごられることが「当たり前」だと受け止めていくのだ。
 さらに、おごられることが当然となり、だんだんと「ありがとう」の言葉も言わなくなる。刺激馴化が進めば、おごられないと残念に思うようになることもある。
「先日、『今日は割り勘な』と言ったら、あからさまにムッとされましたよ。それも、1番出来の悪い部下から」
「それが刺激馴化ですよ。あまり気にされない方が……」
 おごられ続けた過去が、その感情を発生させたといえる。その部下の性格が傲慢で、謙虚さに欠けているわけではないのだ。

続きはソースで
2019年12月18日
https://www.itmedia.co.jp/business/spv/1912/18/news023_0.html