「思いっきりサッカーがしたい」

東京に住む小さな子どもたちの、切実な願いです。
その願いをかなえようと、導き出した手段が「議会への陳情」。

子どもたちがみずから考え、奮闘した300日。その日々を再現しました。
(首都圏放送センター記者 戸叶直宏)


僕は、板橋区に住む悠真(ゆうま)。地元の公立小学校に通う6年生だ。サッカーが大好きで、週末は所属しているサッカークラブの練習に参加している。平日の放課後も、同級生の栞人(かんと)や大誠(たいせい)たちと、8人くらいでサッカーをして遊ぶのが日課だった。

そう、あの日までは…。

ことし2月12日。下校したあと、いつもと同じようにサッカーボールを持って家を出た。自転車で向かったのは、旧板橋第三小学校。僕が生まれる前(平成14年)に廃校になった小学校のグラウンドだ。約束していなくても、ここに行けば誰かしらいる。毎日、飽きもせずに暗くなるまでボールを蹴るのが、何よりの楽しみだった。グラウンドに出ようとしたとき、いつも見かける男の子が座りこんでいた。


「どうしたの?」


「もう、ここでサッカーできなくなるんだって」


「え…うそだろ?」

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191218/K10012218981_1912181120_1912181228_01_04.jpg

『ボールの使用はできなくなりました』

貼り出された白い紙にこう書かれていた。


「旧第三小のグラウンドは、野球とサッカーが同時にできるくらい広くて、僕らにとっては、思いっきりボールを蹴ることができる貴重な場所。ここが使えなくなるなんて、最悪だ…」

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191218/K10012218981_1912181120_1912181228_01_05.jpg


児童相談所を建設する工事の影響で、グラウンドは白い壁で半分くらいのスペースに仕切られた。それでボール遊びが禁止されたのだ。


「とても悩んでおります」区長への手紙


旧第三小の校舎には、ボランティアセンターが入っている。顔なじみの職員の神元さんに文句を言った。

神元さんは、「うーん、不満があるなら、区に伝えるしかないよ」と困り顔だ。


「区に伝えるって…」


とりあえず栞人たちと区役所に行ってみることにした。首都高・板橋ジャンクションの近くにある区役所は、北館と南館があり、北館は13階まである大きな建物だ。どこに行けばいいんだろう?

窓口にいた職員に恐る恐る事情を説明すると、「区長への手紙」という制度があると教えてくれた。


「区長に直接お願いできるなら、一発じゃん」


文章は勝手に浮かんできた。夢中になって、みんなで思いの丈をびっしり書いた。


「ぼくたちは、小学5年生です。ぼくたちはボール遊びを、やる事ができなくなってしまったのです。その事から、ぼくらはとても悩んでおります。あたらしい公園などを作ってもらえれば、こうえいです。日本はとても狭い国です。しかもその中の、東京に、そのような場を作れなど、とてもむずかしい事です。だけどぼくらは、サッカーをしたいのです。おねがいします!!!」


それからおよそ1か月後、区長からようやく返信が届いた。期待して封を開けると、自分たちの手書きのものとは違い、機械で書かれた紙が1枚。


「ボール遊びができる公園は15か所あります」

「小学校の校庭を開放していますが、安全のため柔らかいサッカーボールでないと使えません」

残念な気持ちでいっぱいになった。


「低学年の子に当たったら危ないので、校庭では柔らかいボールしか使ったらいけないことになっている。そのことはもちろん知ってる。だからこそ、これまでのように遊べる場所をつくってほしいとお願いしたのに、全然答えになってないじゃん」

2019年12月18日 15時30分 NHK 全文はソース元で
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191218/k10012218981000.html