阪神大震災で兵庫県内に整備された災害公営住宅(復興住宅)の居住者のうち、被災者として入居した世帯は半数未満となっていることが、毎日新聞の調査で判明した。高齢の被災者が死亡する一方で、非被災者世帯の流入が進んでいるためとみられる。65歳以上の居住者が5割を超える中、3割近くの住宅には自治会がないことも判明。震災から25年を経てコミュニティーの維持が難しくなっている状況が浮き彫りとなった。

 アンケートでは、復興住宅を管理する兵庫県と、神戸市など県内11市に2019年11月(西宮市は19年8月)現在の状況を尋ねた。復興住宅には1万7764世帯が入居。被災証明書を提出するなど「被災者枠」で入った世帯は計8724世帯(49.1%)だった。14年11月時点での毎日新聞の調査(西宮、淡路両市を除く)では59.8%で、約10ポイント低下している。

 居住者全体の高齢化率は53.2%。もともと自治体が高齢の被災者の入居を優先する方針をとっていたこともあり、県内の公営住宅全体(統計がない淡路市を除く)の43.1%を約10ポイント上回った。高齢で亡くなる被災者も相次いでおり、神戸市や県によると、復興住宅の被災者の世帯数は5年前と比べて共に3割以上も減少している。

 一方、借り上げ住宅を除く計179団地のうち48団地(26.8%)で管理運営委員会を含む自治会組織がなかった。特に神戸市では70団地のうち半数の35団地になく、「担い手」不足のため途中で消滅したケースも多いとみられる。

 復興住宅を巡っては、駅から遠いなど利便性の悪い場所では空き部屋が増えて高齢者ばかりになる傾向がある。逆に良い場所では若年層が流入するものの自治会への関心が低く、いずれの場合もコミュニティー維持の難しさが指摘されている。神戸市住宅管理課は「人間関係が希薄化する中で、特に高齢者の孤立化をいかに防ぐかが課題だ」としている。【井上元宏】

 ◇復興住宅のコミュニティーに詳しい馬場美智子・兵庫県立大大学院准教授の話

 復興住宅は被災した多くの高齢者にとって「終(つい)のすみか」だが、新たに入居する若い層は一時的な賃貸住宅としかみていないことが多い。自治会が減ったのは、高齢化に伴い「被災入居者」が減ったことが大きく影響している。孤立を防ぐためには、被災者と非被災者、多世代間の交流を促進し、ゆるやかだが多層的なコミュニティーを作る必要がある。

 ◇災害公営住宅(復興住宅)

 災害で自宅を失い、自力再建が難しい人のために、国の補助で都道府県や市町村が整備する賃貸住宅。約25万棟が全半壊した阪神大震災では、建物を新築したり民間賃貸住宅を借り上げたりして、約2万5400戸を用意した。当初は応募資格を被災者に限定していたが、1998年ごろから非被災者も入居できるようになった。一方、自宅再建の長期ローンを組めない高齢者が長く入居する傾向があり、孤立防止に向けた取り組みが課題になっている。東日本大震災でも宮城、岩手、福島の3県を中心に約3万戸の整備が計画され、99%が完成した。

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