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緊迫の中東海域へ:自衛隊の「調査・研究」能力は十分か?

2020年01月03日 17:00


米軍の“カリスマ将軍殺害”で予断を許さなくなった湾岸情勢

アメリカが、イラクのバグダッド空港において、イラン革命防衛隊コッズ部隊のソレイマニ司令官を殺害する作戦を遂行した。イラクのイスラム教シーア派(Shiite)武装勢力の連合体「人民動員隊(Hashed al-Shaabi)」に属する親イランで知られるイラクのシーア派民兵組織「カタイブ・ヒズボラ(KH)」(神の党旅団)の指導者のアブ・マフディ・ムハンディス(Abu Mahdi al-Muhandis)氏も同時に殺害されたと伝えられている。

大変な事態である。ソレイマニ司令官は、イラン強硬派の象徴的存在であり、イラクに対するイランの影響力の拡大においても大きな役割を持っていたとみなされている。

攻撃に先立つ1月2日、アメリカのエスパー国防長官は、「状況は一変した」と明言し、さらなる攻撃を防ぐための先制攻撃を辞さない、と明言していた。その数時間後、米軍は、ソレイマニ司令官殺害作戦を遂行したわけである。

年末から1月1日にかけて、首都バグダッドにあるアメリカ大使館に抗議デモの参加者が攻撃を仕掛けるという事件が起こっていた。大使をはじめ、多くの大使館員が休暇中だったとされるが、イラク国内の親イラン勢力の介在と、イラク治安当局の黙認が指摘されていた。

そもそも抗議デモは、12月29日にアメリカ軍が「カタイブ・ヒズボラ」のイラクとシリアの拠点5カ所を報復空爆し、少なくとも戦闘員ら25人を殺害したとされる事件によって発生していた。アメリカ軍の攻撃は、12月27日にイラク北部キルクークに近いイラク軍基地が攻撃された際、米軍の請負業者の米国人1人が死亡し、米兵4人が負傷した事件を受けたものであった。

「テロの連鎖を標的殺害で断ち切ることは不可能だ」といった第三者的な言い方が、日本では好まれる。だが、ソレイマニ司令官ほどのカリスマ指導者を失ったことの衝撃は、イラン革命防衛隊側にも大きいだろう。ソレイマニ司令官が、KH指導者とバグダッド空港にいた、という事実それ自体が、アメリカが予防したい事態が近づいていたことを示唆する状況であったとは言える。だがいずれにせよ、今後の湾岸地域情勢は、予断を許さない。

曖昧な位置づけで中東海域に派遣される海上自衛隊

日本の海上自衛隊が周辺海域に派遣されることが、12月27日の閣議で決定された。「安全確保に向けた情報収集態勢を強化するため」で、防衛省設置法4条の「調査・研究」に基づく派遣となる。哨戒ヘリ搭載の護衛艦「たかなみ」1隻、ソマリア沖で海賊対処に当たるP3C哨戒機2機が、投入されるという。活動海域は、オマーン湾、アラビア海北部、イエメン沖バベルマンデブ海峡東側のアデン湾の公海だとされる。


アメリカの呼びかけに応じながら、イランを刺激しないようにした活動領域で、「海上警備行動」発令をにらみながらの「調査・研究」活動という、恐ろしく曖昧な位置づけの派遣である。霞が関在住数十年の「言語明瞭味不明」な玉虫色の文書を大量生産する能力に秀でた官僚群は悦に入っているのかもしれない。現場の自衛官は複雑な思いだろう。

政治指導部が、非常事態には迅速に明瞭な判断を下すことができる権限付与を、事前に現場に与えておくことが必要だ。もっともこのようなことを言うと「武力行使」の「なし崩し的拡大」を目的にした派遣だ、といった批判を浴びることを霞が関の役人群は恐れるのだろう。もちろん「武力行使」は「目的」ではない。 ただ不測の事態への準備だけは必要である。
(リンク先に続きあり)


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