会社法違反(特別背任)などの罪で起訴され、保釈中だった日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告のレバノン逃亡に世界中がブッたまげている。日産社用機で乗り付けた羽田空港で東京地検特捜部に逮捕されてから13カ月。2度目の保釈から8カ月。身を寄せていた都内の高級住宅に設置された監視カメラをかいくぐり、関西空港の出国審査をすり抜け、プライベートジェットでトルコのイスタンブールに飛び、さらにベイルートまで高飛びした。

 仕事納めを済ませ、来る年に思いを寄せていたであろう大晦日、ゴーン本人の「私はいまレバノンにいる」との声明でマサカの事実を知ることになった弁護団の弘中惇一郎弁護士は「寝耳に水という感じでびっくりしているし、当惑している」。まさにハトが豆鉄砲を食らったような表情だった。ブラジルに生まれ、レバノンやフランスで育ったゴーンはこの3カ国から計4通の旅券を発給されている。保釈条件として海外渡航は禁止され、弁護士が旅券を管理することになっていた。ところがゴーンが日産をクビになって在留資格証明書を失ったため、入管法上、旅券の携帯義務が生じ、東京地裁が中身の見える鍵付き透明ケースに入れた仏旅券1通の携帯を認めたという。これが裏目に出てゴーンは日本を脱出し、仏旅券とレバノンの身分証明書でベイルート入りしたわけである。

■裁判所も公判維持に懸念

 東京地検の請求を受けて東京地裁は即日ゴーンの保釈を取り消し。保釈保証金15億円は没収されることとなった。東京地検は出入国管理法違反容疑でゴーンの自宅を家宅捜索したが、身柄は日本の司法が及ばない第三国にある。後の祭りだ。元東京地検特捜部検事で弁護士の郷原信郎氏は言う。

「国際社会から“人質司法”と批判されるように、日本の検察のやり方は悪辣です。ゴーン事件に関しては特別背任も、有価証券報告書に報酬を過少記載したとされる金融商品取引法違反についても無理筋。検察と日産幹部が結託したデタラメ事件です。その上、一貫して否認するゴーン氏は100日以上も拘束され、ようやく保釈されてもキャロル夫人との面会も許されない。金商法違反事件は4月に公判が始まる予定でしたが、特別背任は初公判の見通しすら立っておらず、こうした状況が何年続くのかもわかりません。ゴーン氏の逃亡は残念ですが、原因の大半は検察がつくり上げたものだと言っていい。そもそも、裁判所が保釈を認めたのは有罪に確証を持てず、長期無罪の可能性が高い被告人を長期勾留はできないと判断したためだとみています」

元海兵隊員が協力「22億円脱出作戦」

 落ち目の日産を「V字回復」させたゴーンはカリスマ経営者として名をはせる一方、4万人超をリストラ。

 それでいて数億円単位の巨額報酬を毎年受け取り、セレブ生活を満喫していた。日産を食い物にし、日本の司法制度を舐め切ったような逃亡劇に怒り心頭の人々がいるのもわかる。

 しかし、なんだかんだ言っても「痛快大脱走」に世界が興奮している。保釈時は作業員に変装して雲隠れをたくらんだものの、隠し切れない鋭い眼光を報道陣にすぐさま見破られたが、日本脱出にあたって荷物に扮していたというからケタ違いの気合だ。レバノンのテレビ局MTVが「出国時、楽器の保管ケースに身を隠していた」と報じたことから、SNS上にはコントラバスなどの楽器ケースに入り込む画像が次から次へと投稿されている。

 国内外の報道などによると、3カ月にわたって練られたとされる脱出計画には米警備会社に所属する元海兵隊員とレバノンの警備会社員が協力。先月29日ごろにゴーンの自宅で開かれたホームパーティーにバンドが訪れ、演奏を終えて引き揚げる際に木製の楽器ケースに身を潜めたゴーンを運び出し、トラックで関空に向かい、待機していたトルコの実業家が所有するプライベートジェットに移送。離陸後の機内でゴーンはケースから姿を現したという。この作戦に「2000万ドル(約22億円)以上の費用がかかった」とも報じられている。計画を主導したとされるキャロル夫人は「作り話だ」と否定し、ゴーンも「自分ひとりで準備した」と主張しているが、にわかには信じがたい。保釈条件でネット使用は弁護士事務所のPCに限定され、携帯電話も使用制限があった。


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公開:20/01/04 17:00
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