トランプ米大統領の命令によって、アメリカ軍が1月3日未明、イラクの首都バグダッドの国際空港で、イラン革命防衛隊のガセム・ソレイマニ司令官をドローン攻撃で殺害した。

ソレイマニ司令官は、イラン革命防衛隊で対外工作を担う特殊部隊「コッズ部隊」を20年以上、率いてきた比類なき軍事指導者だ。イラン国内では最高指導者ハメネイ師に続き、事実上ナンバー2の実力者とみられてきた。そして、イランの国民的英雄とみなされてきた。それは、ハメネイ師がソレイマニ氏の死亡を受け、イラン全土が3日間喪に服すことを発表したことからもうかがえる。

一方、アメリカは2007年10月、ソレイマニ司令官をテロリストに指定し、経済金融制裁を科してきた。トランプ大統領も1月3日、支持基盤のキリスト教福音派向けの集会で「昨夜、私の指示でアメリカ軍は空爆を成功させ、テロリストを殺害した」と述べた。

そんなテロリストとして殺害したソレイマニ司令官を、アメリカ国務省高官は1月3日、同省内でのプレスブリーフィングで、1941年12月の真珠湾攻撃を指揮した旧海軍連合艦隊司令長官・山本五十六(やまもといそろく)元帥に例える発言をした。

プレスブリーフィングの中で、アメリカ国務省高官は、ソレイマニ司令官がイラクだけでこれまで608人のアメリカ人を殺害してきたと主張した。そして、今回のソレイマニ司令官殺害によって、中東で何百人ものアメリカ人を犠牲にするテロの発生を鈍化させたり、少なくさせたりする可能性があると指摘した。

●「ヤマモトを撃墜したようなものだ」
そのうえで、アメリカ国務省高官は「1942年にヤマモトを撃墜したようなものだ。おやまあ!なぜ我々がこうしたことをするのか、わざわざ説明しなくてはいけないのか(笑)」と述べた。別のアメリカ国務省高官は、ソレイマニ司令官が”大変能力のあるテロリスト“で、同司令官がいなくてはイランの部隊は苦しむだろうと語った。

山本五十六元帥は連合艦隊司令長官として真珠湾攻撃など太平洋戦争緒戦での勝利の諸作戦を立案指揮した。そして、アメリカ国務省高官が指摘した1942年ではなく、実際は1943年にブーゲンビル島上空でアメリカ軍機に迎撃され、59歳の若さで戦死した。

殺害されたソレイマニ司令官と山本五十六元帥を比較しているのは、こうしたアメリカ国務省高官だけではない。

ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙も1月3日、「トランプの合法的な権限」との題名の社説の中で、第二次世界大戦中の敵将、山本五十六元帥の搭乗機撃墜になぞらえて、ソレイマニ司令官殺害の正当性を主張した。

このほかに、アメリカのシンクタンク、ブルッキングス研究所のシニアフェロー、 マイケル・オハンロン氏も「ソレイマニ司令官殺害は、民間人指導者への攻撃より、山本五十六元帥の搭乗機撃墜により類似している」と述べた。

とはいえ、山本五十六元帥は、当時の日米の国力の差を十分に認識し、アメリカとの戦争は無謀だと知りつつも、連合艦隊司令長官の任を受け、軍人として真珠湾攻撃を苦悩の末に指揮した人物。その品位と品格から多くの日本人の尊敬を集めてきた。2011年末には、映画「聯合(れんごう)艦隊司令長官 山本五十六」が公開され、人気を博した。海上自衛隊をはじめ、多くの自衛官が尊敬の念を抱いている。アメリカが言う「イランのテロリスト」と単純に同等の扱いをされていいものか、日本では複雑な思いをする人々もきっと多いだろう。

1/5(日) 9:58
https://news.yahoo.co.jp/byline/takahashikosuke/20200105-00157699/