アメリカ・カリフォルニア州ではホームレスの数がかつてないほど増え、危機的な状況だ。ロサンゼルスでは路上で生活する人が2019年に16%増加し、いまでは3万6000人にのぼる。シェルターでは2万7000人が生活を送っている。

この状況に苦しんでいるのは、ホームレスたちだけではない。「ロサンゼルス・タイムズ」の記者が地域の住民に取材したところ、想像以上にストレスフルな生活が垣間見えた。
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地獄のひと夏がはじまった

ゴミの山に喧嘩、ドラッグ、そして耳をつんざくような爆音で流れ続ける音楽。それは数ヵ月ものあいだ容赦なく続いた。

「我慢の限界を超えていた」とハリウッドに住むグレッグは語る。

彼のアパートはホームレスのテントに囲まれているのだ。最近までは窓からほんの数メートル先にテントがあったという。ヘッドフォンを付けたりしてなんとか外の騒音を掻き消そうとしたが、どれひとつとして効果はなかった。

「僕が経験したあの地獄がどれほどのものだったか、見当もつかないでしょう」

テントとタープはいつしかロサンゼルスの「街の風景の一部」となった。

この街で、心がかき乱される場面に出くわさない日はない。苦悶の声を上げる人々がそこらにいて、ドラッグの取り引きは野放し状態だ。不法投棄は深刻化している。

とはいえ、大部分のロス市民にとって、こういった災いはよそで起きていることだ。決して自宅の玄関先ではない。

それが昨年の夏は違った。ハリウッド大通りとガワー・ストリート近くに暮らすグレッグとその隣人たちは、いまだ解決していないロサンゼルス最大の問題による「余波」から逃れられなかったのだ。

「自分たちが暮らしていた場所が突然失われた。悪化し続ける生活環境に目を向けてくれる人は、市役所の職員を含め誰もいない」──グレッグら地域住民はそう感じた。これはロサンゼルスに限った話ではない。似たような事例は、たとえばヴェネツィア市民からも報告されている。

「耳をつんざく喚き声や差別的な言葉がひっきりなしに聞こえてくることがありました。互いに『ぶっ殺すぞ』とわめきちらし、音楽もガンガンかけっぱなしです」と、マリッサは話す。自宅で仕事をする彼女はこの事態を乗り切るべく、瞑想を試みたこともあった。

「はっきり言って、いまにもおかしくなりそうなんですよ」と、マリッサはロス市当局宛てのメールに書いている。

グレッグやマリッサが暮らすこのアパートには中流階級の人が多い。家賃はだいたい月2000ドル(約22万円)未満だ。

ギルと名乗る住人は近隣の人たちと話し合い、1000ドルでプラスチックのプランターを共同購入したことがある。袋小路となっている彼らの居住地区内でホームレスたちが野宿しないよう、プランターに花を植えて並べたのだ。しかし、うまくいかなかった。花は引きちぎられ、プランターの一部はゴミ入れと化した。

「親戚一同を招いてホームパーティーを開いていたのは、ずいぶん昔の話です」とギルは言う。

「いまでは親戚を呼ぶことなんて、とうていできません。ここはすっかり物騒な地区になってしまった」

きらびやかな街に落ちる深い影

私は、ハリウッドで何が起きているのかを7月に初めて聞かされ、この目で確かめに行った。それから何度も足を運んでいる。

ここロサンゼルスで猛威を振るう「病」に関する考え方は三者三様で、互いに衝突しているのだ。なかでもハリウッドほどそれがはっきりとした形で表れている場所はほかにない。

たとえば、毎日のように全米からこの地にやってくる人々の目には、街路のテントが「最後の手段」ではなくむしろ「目的地」として映っているのではないか──ハリウッドの住民たちはそう疑っている。

一方のホームレスからすれば、すべての希望は潰え、生きていくのもやっとだ。行く場所などもうどこにもない、と彼らは語る。

クーリエジャポン 全文はソース元で
1/8(水) 6:00配信
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200108-00000001-courrier-int&;p=2