同じような話し相手にもかかわらず、会話が楽しいときと盛り上がらないときがある。なぜその差が生まれるのか?  どうすれば中身のある話ができるのか?  気鋭の脳科学者が会話のメカニズムを明らかにする。

■違う目的地に着いた「会話の達人」

 世の中には楽しい会話ができる人と、話すとまわりをイラつかせてしまう人がいます。その差はどこにあるのでしょうか。会話でまわりをイラつかせるのは、脳の働きでいうと、共感の回路に原因があるかもしれません。脳には、相手の気持ちを推し量ったり気遣ったりする「心の理論(セオリー・オブ・マインド)」という働きがあります。会話が下手な人は、この共感の回路が発達していない可能性があります。

 相手に共感できない人は、その話にも耳を傾けません。これが相手をイライラさせる源になります。というのも、聞きベタは話しベタであり、聞き上手イコール話し上手であるからです。

 僕が「会話の達人」と聞いてすぐに思い出す人物は、文化庁長官も務めた心理学者の河合隼雄さんです。河合さんはタクシーに乗ったとき、ただ相槌を打っているだけなのに、運転手さんがいつのまにか身の上話を始めて、まったく違う目的地に着いたことが何回もあったとおっしゃっていました。相手に関心を持って適切に相槌を打てば、それだけで相手を気持ち良くさせることができる。まさに会話の達人のなせるわざです


 聞き手はどのような人で、何に関心を抱いているのか。それに合わせて臨機応変に内容を変えてこそ、会話は盛り上がります。そして、相手に合わせるには、まず相手の言葉に耳を傾けて、いま心がどのような状態にあるのか推し量る必要があるわけです。

 気づくと自分の話ばかりしてしまう人は、おそらく自分に自信がないのでしょう。自分がどう見られているのかということに気を取られて、相手に共感する余裕がないのです。一方、会話が上手な人は自分に自信があるから、自分のことをいったん忘れて相手に関心を向けられる。

 会話は「根本感情」の設定も大事です。僕は落語が大好きで、よく聞きながら眠りについています。噺家は聞き手に好意を持って笑わせようとしています。その根本感情が伝わってくるから、聞いていて安心できるのです。

 根本感情は、みなさんが思う以上に聞き手に伝わります。同じことを部下に注意しても、パワハラだと訴えられる人とそうでない人がいるのは、根本感情が伝わっているからにほかなりません。口では「おまえのためを思って叱っている」と言っても、根本感情が「怒り」ならば、聞き手は隠されたメッセージのほうを受け取ります。

 アメリカの社会学者、ホックシールドは、労働には肉体労働や頭脳労働以外にも、感情を使う「感情労働」があると指摘しました。たとえばフライトアテンダントはお客から無理難題をふっかけられても、感情をコントロールして笑顔で対応しなければなりません。

 会話にも感情労働の側面があります。相手に関心を持って、さらに根本感情として相手に好意を持てるか。それができる人が、まわりにも好意的に受け入れられるのです。

■「シャンプー」の語源を検索しない

 会話して楽しい人とイラつかせる人の違いとして、自分の言葉で話しているかどうかも注目したいところです。

 友達と会話をしているときに、ふと「シャンプー」の語源が気になったとします。みなさんは、その場でスマホで検索して正しい情報をもとに会話を続けるでしょうか。それとも想像を膨らませて「語感がアフリカの挨拶っぽいよね」「それより中国語に聞こえない? 」と会話を続けるでしょうか。

 僕は後者です。実際、シャンプーの語源がずっと気になっているのですが、語源については検索せず、正解を知らないまま会話を楽しんでいます。

 最近、認知科学の領域で「グーグル効果」が知られるようになりました。グーグル効果とは、あとで検索できるという補足情報とともに情報を提示すると、記憶の効率が下がるとされる現象のことです。とはいえ、シャンプーの語源を検索しないのは、記憶の効率を高めたいからではありません。正解かどうかにかかわらず、自分の考えを普段自分が使っている言葉で話したほうが会話は弾むからです。
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1/12(日) 11:15配信
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200112-00031372-president-soci