国連の国際司法裁判所(ICJ)は23日、ミャンマーに対し、「あらゆる手段を用いて」イスラム系少数民族ロヒンギャに対するジェノサイド(集団虐殺)を阻止するよう命じた。
ロヒンギャが深刻な危機にさらされていると指摘し、改善と結果報告を求めている。

仏教徒が多数を占めるミャンマーでは2017年、軍部主導のロヒンギャ掃討によって、数千人が死亡し、70万人以上が隣国バングラデシュへ逃亡。
ミャンマーに対し国際的な批判が高まっている。

ICJの命令に対しミャンマー外務省は、「状況がゆがめられている」と反論。同国が独自に行った調査では、迫害はなかったとの結論が出ていると述べた。
この裁判は、イスラム教徒が多数を占める西アフリカの小国ガンビアが、多くのイスラム教国を代表して提訴した。

法廷ではこの日、裁判官17人が満場一致で命令に賛成。ロヒンギャに対する虐殺が再び行われる可能性があると警告した。
命令には、ロヒンギャに対し殺人や「身体や精神に有害な行為」を行わないことと、すでに行われた可能性のある虐殺の証拠を保全することなどが盛り込まれている。

ICJのアブドゥルカウィ・アフメド・ユスフ裁判官は、この命令の実施状況について4カ月以内に報告するようミャンマーに求めた。
この命令は拘束力があり、控訴をできない一方、ICJは命令の実行を強制できない。

■ ミャンマーの反応は?

ミャンマーの外務省は、独自に設置した独立調査委員会が、虐殺があったとされる西部ラカイン州で、そのような実態を確認していないと説明。
一方で、戦争犯罪はあったことを認め、ミャンマーの刑法体系の下で捜査・訴追すると述べた。

また、「人権活動家」からの非難によって、いくつかの国との関係に悪影響があったと批判した。
外務省は声明で、「(人権活動家により)ミャンマーがラカイン州に持続可能な発展の基盤を築く能力がくじかれた」と述べている。

ミャンマー政府はかねて、ラカイン州での軍事作戦は過激派の脅威に対応したものだと主張している。
ミャンマーの指導者アウンサンスーチー国家顧問兼外相はICJに出廷した際、暴力行為は、ロヒンギャの過激派がミャンマーの警備施設を襲撃したことに起因する「内政上の武力衝突」だと主張した。

■ 命令への賛否

ロヒンギャの団体は、ICJの命令を歓迎している。
イギリスのビルマ・ロヒンギャ協会(BROUK)のトゥン・キン会長はツイッターで、「きょうのICJの命令は、ロヒンギャへの正義にとって重要な瞬間であり、数十年にわたるジェノサイドを生きてきた我々の立場を証明するものでもある」と述べた。
「この判断は、ICJがジェノサイド疑惑を深刻にとらえると同時に、疑惑を否定しようとするミャンマーの空虚な試みに耳を傾けなかったことを明確に示している」

人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルも、今回の判断は、世界がミャンマーの「暴虐」を許していないというメッセージだと述べた。
今回の裁判を起こしたガンビアのアブバカル・マリー・タンバドゥ司法長官兼法相は、ICJの判断に「とても、とても喜んでいる」と述べた。

一方、BBCがフェイスブックで行った法廷の生配信では、ミャンマーの市民からICJや裁判官に対する手厳しい声が上がった。
ヌ・インウィンさんは、「これは公正で正義に基づいた命令ではない。ミャンマー国民を代表して、この裁判官らは目も見えず、耳も聞こえていないのだと言いたい。この国の実情を知らないのだ」とコメントした。

キャウ・ミント・オオさんは、ミャンマーにとって悲劇の日だと述べ、「私たちは、ニシキヘビに徐々に首を締められているような状態。そのうちICJのあらゆる要求を無理やり受け入れることになる」と話した。
バングラデシュのAK・アブドゥル・モメン外相は、「ミャンマーに良識が広まり、(バングラデシュにいる)全てのロヒンギャ難民を帰還させ、安全を提供してくれることを願っている」と述べた。

■ ロヒンギャ問題とは

2017年初め、ミャンマーには100万人のロヒンギャがおり、その大半は西部ラカイン州に住んでいた。
しかしミャンマーはロヒンギャをバングラデシュからの不法移民と見なし、市民権を与えていない。
ミャンマーで迫害されたロヒンギャは、これまで何十年にもわたってバングラデシュに逃亡し、難民となっている。

続きは下記をご覧ください
https://www.bbc.com/japanese/51231974
https://ichef.bbci.co.uk/news/660/cpsprodpb/171D9/production/_110618649_mediaitem110618648.jpg