※一部抜粋
私のことを“they”と呼んで
2020年2月7日 19時27分
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200207/k10012276321000.html

去年、日本ではラグビー日本代表のスローガン「ONE TEAM」が「新語・流行語大賞」の年間大賞に選ばれました。実はアメリカでも、大手出版社が、毎年「ことしの言葉」を発表しています。去年、選ばれたことばは「they」です。「彼ら・彼女ら」を意味する「they」は、昔からあることばなのに、なぜ選ばれたのでしょうか。そして、このことばをめぐり、アメリカで巻き起こっている議論とは。
(国際部 記者 藤井美沙紀)

■“they”とは?
「they」ということば。中学の英語の授業で、「彼ら・彼女ら」という2人以上の人を指す呼び方として習ったと思います。

実は、いま、アメリカでは「he(彼)」でもなく、「she(彼女)」でもない、性的マイノリティーの人たちに対して、「they」を使う動きが広がっているのです。

そして、1人でも「they」を使うのです。

「they」ということばを、2019年の「ことしの言葉」に選んだ辞書などを販売している大手出版社、メリアム・ウェブスターによりますと、アメリカには、性別を問わず、1人称として使う「thon」ということばがあったそうです。しかし、あまり使われず、辞書から削除されました。

その代わりに使われるようになったのが、「they」です。

もともと、特定の人物が男性か女性か分からない時に、「he」や「she」の代わりに使われていたこともあり、性的マイノリティーの受け皿として広がっていったといいます。

そして、この「they」を使う場合、動詞は複数形で、「youが1人の場合でもareという動詞を使うのと同じ」だと説明しています。

アメリカの女性議員が自分の子どもの代名詞を「they」だと公表したことや、イギリスのシンガーソングライターが自分を「they」と呼んでほしいと訴えたことなどが大きな話題となり、このことばの検索回数が大幅に増えたことなどから、出版社は「ことしの言葉」に選んだとしています。

※中略

■根強い反対 割れるアメリカ社会
しかし、アメリカでは、「they」が広がる一方で、反対の声も根強くあります。キリスト教の保守派を中心に、性的マイノリティーを否定する人が少なくないからです。
「ギロチンにかけたほうがいい」。「精神を病んでいる」。サクライさんを取り上げたネット上のニュースには、心ないコメントが多く寄せられていました。

■キリスト教 保守派「性別は神が定めたもの」
南部ジョージア州の教会を訪れました。ジョージア州は、南部から中西部にかけて広がる、聖書の教えを重視するキリスト教の保守派が多く住む「バイブルベルト」に位置しています。

12月のある日曜日。50人ほどの信者が集まると、牧師は説教を始めました。その中で、性的マイノリティーについても触れました。
「性的マイノリティーは、不適切な言葉の使い方を周りの人々に強要しています。非常に不愉快で、不潔で不名誉なことです」

強い表現に驚きましたが、その後も、1時間半におよぶ説教のなかで、牧師は繰り返し性的マイノリティーを批判したのです。

こうした保守派は、「性別は神によって定められたもの」と強く考えているため、「they」には否定的なのだといいます。説教のあと、ある男性信者は、「聖書では、性的マイノリティーは危険だと教えています。男は男、女は女なのです、性別のない呼び方なんて絶対に使いません」と話していました。

■賛否は真っ二つ
リベラルとされるニューヨークでも、「they」の呼び方に賛同する人が多くいる一方で、否定的な声も聞かれました。

中には、「絶対だめ」という強い否定派もいれば、文法的な違和感から「理解することは重要だが、私なら名前で呼ぶ」という人もいました。「they」をめぐる議論は、データからも二分していることがうかがえます。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200207/K10012276321_2002071803_2002071927_01_12.jpg

アメリカの世論調査機関、ピュー・リサーチセンターが、「they」などの性別を特定しない呼び方についてどう思うか聞いたところ、肯定派は52%、否定派は47%と、賛否が真っ二つに分かれていたのです。

※以下省略