人手不足の日本にとって、彼らの存在はもはや欠かせない。けれども、受け入れ態勢の整備や労働環境の改善が順調に進んでいるとは言い難い。政府は、数字の裏に隠れた雇用の実態に改めて目を向けるべきだ。

 厚生労働省が全国の事業所からの届け出に基づく外国人労働者数(昨年10月末現在)を公表した。総数は165万8千人(前年同期比19万8千人増)、雇用先は24万2千カ所(同2万6千カ所増)に広がり、ともに過去最多を更新した。

 安倍晋三政権が推進する高度人材の受け入れや雇用環境の改善が進んでいることが増加の要因−と同省は分析している。しかし、数字の内訳などを見ると気掛かりな点も多い。

 専門的・技術的分野の在留資格(高度人材)で働く人は32万9千人で、昨年より5万2千人増えた。そのうち、昨春導入され注目を集めた「特定技能」は520人にとどまった。

 産業の各分野で一定の知識や経験を持つ人を対象にした「特定技能」は、新たな外国人雇用制度の目玉とされ、政府は初年度に最大4万7千人の受け入れを見込んでいた。海外での周知や試験の実施などが遅れ、懸念されていた制度設計の甘さと準備不足が露呈した格好だ。

 最も増加したのは「技能実習」で、38万4千人(前年同期比7万5千人増)に上った。本来は海外への技術移転が目的とされるこの資格を巡っては、深刻な問題が横たわっている。実習生が事実上、低賃金職場の担い手と化し、残業代不払いといった不当労働行為や事故死、自殺などが多発しているからだ。

 こうした問題が、一昨年から昨年の国会で新制度導入に関連してクローズアップされた。そこで政府が急きょ、雇用状況の監視強化や実習生を含む外国人の生活支援などを進める「共生社会実現に向けた総合施策」をまとめた経緯がある。それがどこまで生かされているのか。

 法務省によると、2018年に過去最多の9052人に上った実習生の失踪は19年上半期だけでも4499人と多発している。異常な数字である。より高賃金の職場を求める実習生側の思いの一方で、彼らに対する人権侵害行為などがなお横行している可能性がある。

 新制度に伴って昨春、従来の入管業務と外国人支援の両方を担う「出入国在留管理庁」(法務省の外局)が設置された。以来、まもなく1年になる。

 同庁の機能も含め、一連の施策で外国人を取り巻く諸問題がいかに是正され、どんな課題が積み残されているのか。政府は真摯(しんし)に検証を進め、国会の場などで明らかにすべきだ。

2020/2/8 10:34
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