東日本大震災から9年となるのを前に、NHKが岩手・宮城・福島の被災者にアンケートを行ったところ、今も被災者だと感じている人が6割余りに上りました。経済的な復興の実感が乏しい人ほど自分が被災者だと感じていて、専門家は「経済の問題が立ちゆかない状況にあることが非常に重要な課題として残っている」と指摘しています。

NHKは、去年12月からことし1月にかけて、岩手・宮城・福島の被災者や原発事故の避難者など4000人余りを対象にアンケートを行い、48%に当たる1965人から回答を得ました。

この中で、自分が被災者だと意識しなくなった時期について尋ねたところ、今も被災者だと感じている人が有効回答の62%に上りました。

阪神・淡路大震災から10年で専門家が行った同様の調査では、兵庫で被災者と意識していた人は25%で、岩手・宮城・福島と比べおよそ2.5倍の開きがあります。

今回の調査では、今も被災者だと感じている人のうち、「地域経済が震災の影響を脱した」と回答した人が4%にとどまるなど、経済的な復興の実感が乏しい人ほど今も被災者だと感じている割合が高くなりました。

自由記述で、福島県南相馬市の70代の女性は、「駅通りの商店が次々と閉鎖しさみしい。若者が戻ってこなく、町全体が活性化するのはまだ遠いと感じる。昔の当たり前の普通の暮らしができるのは、あと何十年後になるのか」と書きました。

アンケートの分析にあたった社会心理学が専門の兵庫県立大学の木村玲欧教授は、「9年たっても家計の問題も地域経済の問題も戻っていないのが特徴で、経済の問題が立ちゆかない状況にあることが非常に重要な課題として残っている。自分が被災者だという意識を脱して元の日常に戻るためには、生活再建をしっかり考え、対策をとっていかなければならない」と指摘しています。

復興の実感に差
今回の調査では、自分が被災者だと感じている人とそうでない人の間で経済的な復興や地域コミュニティーの再生の実感に大きな差が見られました。

復興実感を項目別に尋ねる設問で、「地域経済が震災の影響を脱した」、「家計への震災の影響がなくなった」、「地域の活動がもとに戻った」と回答した人の割合は、いずれも被災者だと感じている人のほうがそうでない人より30ポイント以上低くなりました。

一方で、「すまいの問題が最終的に解決した」、「地域の道路がもとに戻った」、「地域の学校がもとに戻った」と回答した人の割合は、いずれも10ポイントから20ポイントの差にとどまりました。

自由記述で、岩手県陸前高田市の50代の女性は、「大事なことは建物中心の再建ではなく、身近な生活や心の安定。直後は混乱し、自分の周りに対応するのが、ほとんどの人が精いっぱいだったと思う。その状況が、今の現実の生活とはかけはなれた『復興』というものになっていると思う」と書きました。

岩手県宮古市の70代の男性は、「ハード面での整備は、一定の展望が開ける情勢になったと判断できる。一方、震災の影響により減少した人口や縮小した地域経済そして、破壊された地域コミュニティーは、元に戻らない状況が続いており、見通しは極めて暗いと言わざるをえない」とつづりました。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200307/k10012319071000.html?utm_int=news-new_contents_list-items_004
2020年3月7日 17時28分