https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200311-00000065-sasahi-soci
 新型コロナウイルス感染症を巡り、政府の専門家会議(座長=脇田隆字・国立感染症研究所長)は3月9日、国内の状況について「持ちこたえている」と説明した。
しかし、PCR検査は保険適用になったにもかかわらず、遅々として進んでいないのが現実だ。現場で一体、何が起こっているのか?

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「PCR検査の体制整備の遅れは、すべて感染研に問題がある」
こう厳しく指摘するのは医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師だ。そしてこう続ける。
「驚くことに、日本の新型コロナウイルス肺炎による致死率は、上海、北京に比べはるかに高い。なぜかと言うと、それはこれまでPCR検査を広く行ってこなかったからです」

たしかに、お隣の韓国は、今回の新型コロナ騒ぎで1日当たり5千〜1万4千人のペースで検査し、2月末時点で計約7万8千人の検査を終えたという。
日本では、一日に約3800件の検査ができるとされていたが、2月18日から23日までに行った検査は計約5700件だったと、衆院予算委員会で報告された。
保健所が医師の検査依頼を拒んだ事例が、少なくとも計30件あったことも日本医師会の調査で明らかになった。

検査体制の見直しを求める声におされてか、政府は、それまでは法律に基づき、保健所が認めないと実施できなかったPCR検査に、3月6日から健康保険を適用し、
民間の検査会社などでも実施できるようにした。
しかし、なぜこの時期まで、検査の幅を広げなかったのだろうか。それについて上医師はこう述べる。

「それは、感染研の目的が感染者の治療ではなく、研究にあるからです」

今回の新型コロナ対策では、感染研に9.8億円の予算が付けられている。
本来なら、それを使って感染者の広がりを知るためのサンプル調査をしたり、民間にPCR検査を依頼したりしてもよかったはず。
それらをしなかったのは、すべては自分たちの研究のためで、PCR検査のデータを独占したかったから、との見方も出ている。

実際、政府の新型コロナ対策を担う専門家会議のメンバーには、座長を始め、感染研に関係する人物がいる。
PCR検査を民間まで広げることには消極的だったことがうかがえる。

では、保険適用されたことでようやく、誰もが近くの医療機関で検査を受けられるようになるのか?
長年、感染症の研究と治療に携わってきた、グローバルヘルスケアクリニック院長の水野泰孝医師は言う。

「今までと一緒で、検査依頼を出せるのは『帰国者・接触者外来』(全国約860カ所/非公開)の医師のみ。一般の病院や診療所では検査をすることはむずかしい」

今回の保険適用を受け、感染者や感染した疑いのある人が次々と一般の診療所を訪ねることが予想される。
そうすると、他の病気などで受診した患者らと同じスペースで待つことで、感染の恐れが出てくる。
さらには、多くの人が訪れれば風評も出かねず、すでに「呼吸器症状がある人の診療はしたくない」と言う医師も出るなど、現場は混乱しているという。

水野医師はこう訴える。
「まずは、誰でも近くの診療所で検査を受けられる、という誤解を解くことが必要。その上で、今後は一般の診療所でも検査ができる体制を整えてほしい」

クルーズ船の対応を始め、これまでに専門家会議がとった対策が、功を奏しているとは言い難い。
感染研とは誰のための研究所なのか──。
前出の上医師が指摘する。
「今は感染研のための感染研になっている。政治に影響されず、真に国民の健康を第一に考える組織にすべきだ」

自国で発生した感染症の全体像を把握する調査は必要不可欠だが、人の生死を重視しない研究でいいはずがない。