「トイレなし」にも理由あり 乗務員不足も影響

 高速バスでは、トイレなしの車両を運行している事業者もあれば、全車トイレ付きとしている事業者もあります。あるバス事業者は「車内トイレは使う、使わないにかかわらず『あると安心』という、いわば保険的なもの」と話しますが、トイレなしのバスを運行することにも理由があります。

 長距離の夜行便などでは、車内トイレを「恥ずかしくて使えない」という人だけでなく、「音やにおいが気になる」など、トイレがあること自体を敬遠する人もいることから、たとえばウィラーはこれまで、トイレ導入に積極的ではありませんでした。そもそも、高速バスでは2時間から3時間おきにSA・PAなどでトイレ休憩をとるため、乗客はその際に用を足せるという理由もあります。

 また、トイレを設置すると、そのぶん座席が削られ、乗れる人数が少なくなります。乗車時間1時間から2時間程度の短距離路線では、高頻度での運行にもかかわらず満席で、利用客のあふれる様子も見られますが、一方で乗務員不足も慢性化しているため、増便も容易ではありません。

 このため静岡県のしずてつジャストラインは2019年に、一般的なトイレなしの大型バスにおける最大値よりも、座席を1列増やした車両をメーカーと共同で開発し、利用者の多い静岡空港線などへ導入しました。路線の特徴を考慮し、1便あたりの輸送力を向上させるうえで、トイレなしの車両があえて選ばれることもあるというわけです。

 こうした理由から、高速バスの短距離路線ではトイレなしの車両も少なくありませんが、一方で「短距離路線であってもトイレは必要」と話す事業者もあります。


渋滞時にありがたい車内トイレ

 おもに中央道を走る昼行バスや、京王線沿線エリアと羽田・成田両空港を結ぶ空港連絡バスなどを運行する京王電鉄バスは、もともと空港線などの短距離路線ではトイレを導入していなかったそうです。しかし事故による道路の通行止めなどで、長時間にわたり立ち往生するケースもあったことから、2000年代には路線によらず全車トイレ付きにしたといいます。

「2018年1月には、大雪により首都高が長時間通行止めとなり、当社の空港線バスもほぼひと晩にわたり、首都高での立ち往生に巻き込まれました。そのなかで、トイレのない他社さんのバスにお乗りの方に、当社のバスのトイレを使っていただいたこともありました」(京王電鉄バス)

 首都高だけでなく、中央道の神奈川県と東京都のあいだにある小仏トンネルの上り線など、主たる運行経路に慢性的な渋滞ポイントもあるため、短距離路線であってもトイレは必要なのだそうです。

 京王電鉄バスが路線によらず全車にトイレを設置しているのには、別の側面もあります。というのも、ひとつの車両が短距離から長距離まで様々な路線で使われることもあり、全車トイレ付きとしたほうが運用上も都合がよいのだそうです。

 また近年、トイレを豪華にすることで「保険」的な位置づけから脱し、差別化しようとする動きもあります。

 前出のウィラーは利用者の拡大を受けて方針を転換し、長距離路線から順次、車内トイレを導入していますが、スペースをやや広めにとり、化粧鏡なども備えているとのこと。京王電鉄バスでも一部車両に、着替えも可能な広めのトイレを設置しています。

3/16(月) 16:01配信
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200316-00010005-norimono-bus_all
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