新型肺炎とともに「デマ」も世界で蔓延している。
依然として収束しない、食料品やトイレットペーパーの買い占めもそんなデマが招いた悲劇だ。
そんな中、インドネシアでは、外交問題にも発展した風評被害を日本人がこうむっていた。東南アジア情勢に詳しいジャーナリストの末永恵氏がレポートする。

「邦人保護の観点からも極めて重要な問題だ」――。新型肺炎問題で日本人がインドネシアで差別的な扱いを受けたとして、茂木敏充外相は3月18日の衆院外務委員会で、こう遺憾を表明した。

同委員会では、外務省の水嶋光一領事局長も、インドネシアやドイツなどの国で「日本人への差別的な扱いが生じている」との懸念を表明。茂木外相は「再発防止の要請を行った」と政府や関係団体に抗議したことを明らかにした。

コロナ騒動に端を発した日本人差別は、外交問題にも発展している。とくにインドネシアの場合は、国家元首が筆頭となって、その一因を招いた。
長年、インドネシアにはODA(政府開発援助)などの形で巨額の血税が投入されてきただけに、日本政府としては、国民を納得させるだけの相当な対処が求められているだろう。

はじまりは、3月2日のインドネシア政府による「インドネシア初の感染者の感染源が日本人」という公式発表だった。インドネシアで第1号、そして第2号の感染者とされたのは、インドネシア人の娘(31)とその母親(64)。
自己申告によれば、娘はジャカルタのクラブで日本人女性とダンスをし、“濃厚接触”。この日本人女性は隣国マレーシアの自宅に帰った後に体調不良で入院し、新型肺炎に感染したことが明らかとなった。
その後、件のインドネシア人の母娘も体調が悪化し、病院へ。かかりつけ医には「チフス」「気管支炎」と誤診されたというが、日本人女性が陽性だった旨がインドネシア側に伝えられたことで、母娘も新型肺炎に罹っていたことが判明したという。

当時、シンガポールやマレーシアなど近隣国で感染者数が拡大していた中にあって、インドネシアは「感染者ゼロ」を貫いていた。
東南アジア域内最大の約2憶6000万人という人口を抱え、しかも武漢のある湖北省や四川省など中国内陸部を中心とした中国人が年間200万人訪れる条件にあっての「ゼロ」には、
インドネシア政府としても誇りに思うところがあったのだろう。それが、日本人によって崩されたというのだ。感染者情報開示にあたっては、国家元首に当たるジョコ・ウィドド大統領(以下、ジョコウィ大統領)がわざわざ
「日本人が感染源」と“認定”する熱の入れようだった。

件の日本人女性がコロナに罹っていたこと、母娘が陽性だったことも事実である。ただし問題は、母娘が日本人女性から感染した科学的な根拠は何もなかったことだ。
それだけにこのニュースは東南アジア諸国を中心にアジア各国で大きく取り上げられ、たとえば香港の「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」は3月4日付紙面で『インドネシアの国民は、
コロナ危機でジョコウィ政権を信用できるか?』との記事を掲載。このほかにもインドネシア政府の対応を非難、疑問視する声は多くあった。

それでも大統領が発表した「感染源は日本人」という説はインドネシア内で一人歩き。
風評がSNSで瞬く間に拡散され、現地を旅行したり、あるいは居住している日本人が、さまざまな言動、行動による反日的ハラスメントをインドネシア国民から受けることとなった。

「日本人は出ていけ!」

筆者の友人らも、罵声を浴びたり、差別を受けたりなど、ハラスメントを受けたと証言する。
「レストランで『日本人は出ていけ!』といわれた」「スーパーマーケットで日本人とわかるや否や『コロナを持ち込むな!』」
「GoCarやGRAB(※現地で盛んなUberのような配車サービス)を利用したら乗車拒否にあった」「スポーツクラブで日本人は離れた場所でランニングするよういわれた、中国人は許されていたのに……」などなど。
日系企業の日本人経営者に「日本人スタッフはマスクを着用させるべき」とインドネシア人スタッフが詰め寄った、なんて事例も報告されている。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200330-00616842-shincho-int&;p=2
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