公的年金の資産運用が海外シフトを強める。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が31日に発表した2020年度からの新たな資産構成は外国債券の割合を従来の15%から25%に引き上げ、外国株式を含む海外資産の割合を過去最大の50%とした。日本国債の投資収益が低迷する中、利回りの高い資産の比率を高める狙いだが、為替変動による短期的な資産変動は大きくなり、海外リスクが高まる。

「国債は安全な資産ではあるが、金利がマイナスであるものに投資していいのか、ずっと組織の中でも悩んでいた」。GPIFの高橋則広理事長は31日の記者会見で外国債に資金をシフトする理由をこう説明した。

GPIFは約160兆円を運用する世界最大規模の機関投資家だ。国民が納めた年金の積立金などを国内債、国内株、外国債、外国株の4資産に投じている。これらの構成比率を定めた「基本ポートフォリオ」を5年半ぶりに改定した。

これまでは運用資産の35%を国内債、25%を国内株、15%を外国債、25%を外国株に振り向けてきた。4月からは国内債に投じている資金の一部を外債にシフトする。国内債の比率を25%に下げる一方、外国債の比率を25%に引き上げる。株式比率は国内外ともに25%を維持するが、海外資産の構成比率はこれまでの4割から5割に高まる。

実際の運用構成が基本ポートフォリオからずれる許容幅も改める。外国債は目標値から6%、外国株は7%までの乖離(かいり)を認めることとした。これにより、最大で国民の年金積立金の63%が海外の資産で運用される可能性がある。

GPIFは従来、国内資産を中心に運用を行ってきた。自主運用を始めた01年度の国内債比率は68%で、国内株や短期資産を含めると、国内の資産に資金の8割強を投じていた。

国債の投資利回りは一般的に発行国の物価上昇率に依存する。少子高齢化やマイナス金利政策で日本の金利が長期的に低迷しており、「海外の方が利回りや物価の上昇率が高いという格差が埋められない中で、利回りを海外に求める結果として外債が増えた」(高橋理事長)という。

次期ポートフォリオを議論したGPIFの経営委員会では、国内外の資産区分を撤廃し、資産構成は株式と債券だけにすべきだとの声も出ていた。カナダ年金制度投資やノルウェー政府年金基金といった主要な海外の年金基金でも国内外の資産を区別していない。ただ、区分を撤廃した場合、大幅に資産配分を見直すのではないかとの思惑を市場に与えかねないことから、乖離許容幅の範囲で柔軟に対応することにした。

海外資産が5割となることで、運用資産に与える為替変動の影響は大きくなる。高橋理事長は足元で日米の長期金利差が1%程度で推移していることに触れ、「仮に1%でも10年で約10%になる。100円で購入しても、90円までは問題がない」として理解を求めた。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57468200R30C20A3EE9000/
2020/3/31 21:22