首都圏で新型コロナウイルスの感染者が急増する中、茅野市を中心とする八ケ岳西南麓で別荘地を利用する人が増えている。同市郊外にある蓼科高原では1〜3月の水道通水件数が前年同期に比べて3割以上増加した別荘地もある。暖冬で雪が少ないこともあるが、人との接触がほとんどなく、空気が澄んでいる別荘地に“避難”する動きがあるという。別荘事業者は感染症対策を課題に挙げ、細心の注意を払って対応している。

茅野市には蓼科高原を中心に約1万戸の別荘がある。大正時代以降、避暑や転地療養の別天地として文学者や映画人、大学教授らに愛され、高度経済成長期には大手資本が相次いで進出。大規模な別荘地やホテル、ゴルフ場、スキー場が整備され、国内有数の高原リゾートを形成した。

市などの調査だと、別荘は約6割が活用されている。平均の年間利用日数が48日間、1戸1日当たりの来訪者は3・1人で、年間延べ89万人余が訪れる計算だ。例年だと5月の大型連休前後に来荘する人が増えるが、「今年は入り込みが早く滞在日数も長い傾向」(別荘事業者)という。

国道299号沿いに2250戸を展開する「蓼科ビレッジ」によると、定住や自己管理の別荘利用者を除く同社管理の1800戸のうち、今年1月1日〜3月24日の別荘への通水依頼件数は270件。昨年1月1日〜3月31日の204件を66件、32・4%上回る。月別だと1月66件(前年同期50件)、2月94件(同72件)、3月110件(同82件)と大幅に増えている。

蓼科ビレッジには今月上旬、都内の70代夫婦が訪れた。普段は避暑地として利用している夫婦だが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて「10日ほど避難しに来ました」と話したという。

他の別荘地で取材に応じた研修コンサルタントの男性(65)は2月中旬以降の仕事がキャンセルになったため、妻(64)と2人で40年余り通う蓼科の別荘に生活の拠点を移した。「買いだめで東京は殺気立っている。蓼科は空気がいいし隣の別荘と離れている。インターネットで仕事もできる。別荘のおかげで安全安心だね」と語った。

一方、別荘事業者が気をもむのが感染症対策だ。シーズンの初めは「まず管理事務所で用事を済ませる人が多い」(別荘事業者)。管理事務所ではクリーニングや宅急便の取り次ぎ、鍵の引き渡し、管理費の支払いで接触する機会がある。感染拡大の防止に取り組んでいるが、ある別荘事業者は「マスクや消毒液が不足している」と懸念を示す。

八ケ岳西南麓の別荘地は2011年の原発事故の際も利用者が増加した。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う別荘需要の拡大はないが、定住志向を持つ人や現役世代が別荘に着目し、格安な中古物件の購入や冬仕様のリフォーム工事に動きがあるという。感染拡大のリスクが低いと判断して、ゴルフやキャンプを楽しむ人も増えている。

蓼科ビレッジの両角明社長は「避暑や観光だけではなく、何かあったときに暮らすことができるセカンドハウスとして別荘を認知してもらえたら。4月以降も利用者は増えてくると思う。これからは感染症対策を徹底しないといけない」と気を引き締めた。

社会 2020年3月30日 6時00分
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