著作累計が2,000万部を突破した世界的歴史学者・哲学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏は、2020年3月15日付アメリカTIME誌に「人類はコロナウイルスといかに闘うべきか――今こそグローバルな信頼と団結を(原題:In the Battle Against Coronavirus, Humanity Lacks Leadership)」と題した記事を寄稿しました。

新型コロナウイルスと対峙する上での示唆に富んだハラリ氏のメッセージを、氏の著作全てを訳した柴田裕之氏が新たに訳しおろし、ハラリ氏並びにTIME誌の了解を得て、緊急全文公開します!

現代における「知の巨人」が考える、“今、人類に本当に必要なこと”、“真の意味での新型コロナウィルスに対する勝利”とは何か。是非ご一読下さい。





2020年3月15日「TIME」誌記事
人類はコロナウイルスといかに闘うべきか――今こそグローバルな信頼と団結を

ユヴァル・ノア・ハラリ=著
(歴史学者・哲学者。世界的ベストセラー『サピエンス全史』、『ホモ・デウス』、『21 Lessons』著者)

柴田裕之=訳





 多くの人が新型コロナウイルスの大流行をグローバル化のせいにし、この種の感染爆発が再び起こるのを防ぐためには、脱グローバル化するしかないと言う。壁を築き、移動を制限し、貿易を減らせ、と。だが、感染症を封じ込めるのに短期の隔離は不可欠だとはいえ、長期の孤立主義政策は経済の崩壊につながるだけで、真の感染症対策にはならない。むしろ、その正反対だ。感染症の大流行への本当の対抗手段は、分離ではなく協力なのだ。

 感染症は、現在のグローバル化時代のはるか以前から、厖大ぼうだいな数の人命を奪ってきた。14世紀には、飛行機もクルーズ船もなかったというのに、黒死病(ペスト)は10年そこそこで東アジアから西ヨーロッパへと拡がり、ユーラシア大陸の人口の四半分を超える7500万〜2億人が亡くなった。イングランドでは、10人に4人が命を落とし、フィレンツェの町は、10万の住民のうち5万人を失った。

 1520年3月、フランシスコ・デ・エギアという、たった1人の天然痘ウイルス保有者がメキシコに上陸した。当時の中央アメリカには電車もバスもなければ、ロバさえいなかった。それにもかかわらず、天然痘は大流行し、12月までに中央アメリカ全域が大打撃を受け、一部の推定によると、人口の3分の1が亡くなったとされている。

 1918年には、ひどい悪性のインフルエンザウイルスが数か月のうちに世界の隅々まで拡がり、5億もの人が感染した。これは当時の人口の4分の1を超える。インドでは人口の5%、タヒチ島では14%、サモア諸島では20%が亡くなったと推定されている。このパンデミック(世界的大流行)は、1年にも満たぬうちに何千万(ことによると1億)もの人の命を奪った。これは、4年に及ぶ第1次世界大戦の悲惨な戦いでの死者を上回る数だ。

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