【ベルリン=近藤晶】新型コロナウイルス対策として、非常事態宣言の無期限延長など首相の権限拡大を可能にする法案がハンガリー議会で可決され、懸念が広がっている。野党は強権的な政策を進めるオルバン首相の独裁につながりかねないと反発、欧州連合(EU)も感染拡大の抑止策は「限定的」であるべきだと強く警告している。

 地元メディアによると、法案は三月三十日に議会で成立し、翌日施行された。非常事態の継続は十五日ごとに議会の承認が必要だったが、今後不要になる。他の欧州諸国では非常事態に伴う権限拡大はおおむね三十〜九十日に限定されており、無期限延長は異例だ。議会はオルバン氏率いる与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」が過半数を握り、チェックが働かない恐れがある。

 また、同法は新型ウイルスの「偽ニュース」を流した場合、最高五年の禁錮刑を科すとし、政権に批判的な報道を封じる狙いもあるとみられている。

 オルバン政権は先月十一日、感染拡大を防ぐためとして非常事態を宣言。イタリアや中国など四カ国からの入国を禁止したほか、二十八日からは二週間の外出禁止措置を取っている。

 バルガ法相は「国民の健康と経済を守るため、政府が直ちに行動できるようにする法律だ」と主張。これに対し、野党議員は議会で「政府に無制限の権力を無期限に与えるものだ」と強く反発した。

 オルバン政権はこれまでも、メディアを統制する法律の制定や憲法裁判所の機能を縮小する憲法改正など強権的な政策を進め、EUと激しく対立してきた。

 EUのフォンデアライエン欧州委員長は三十一日、「(新型ウイルス対策の)緊急措置は必要なものに限定されなければならない。EUの基本的価値を犠牲にしないことが最も重要だ」と名指しは避けながらも非難し、欧州委が加盟国の緊急措置を監視するとした。ドイツなど十三のEU加盟国は一日、共同声明を発表し、法の支配や民主主義が脅かされかねないと懸念を表明した。

 独ベルテルスマン財団の欧州専門家ヨアヒム・フリッツファンナーメ氏は独ラジオに「ハンガリーで死者が増えれば、オルバン氏は次の段階に進むだろう」と指摘。「これは民主主義から独裁主義へのステップだ」と批判した。

2020年4月3日 朝刊
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