新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向けた外出自粛要請。東京都に端を発した活動自粛の波は県内の運輸業界をのみ込んだ。「震災の時よりはるかにひどいね」。人影のまばらな福島市の街中で客待ちをしていたタクシー運転手の男性はぼやいた。

 ◆利用者6割強減

 「オーバーシュート(爆発的患者急増)を防ぐ重大局面」。東京都の小池百合子知事は3月25日夜、緊急記者会見を開き、不要不急の外出を避けるよう要請した。JR東日本福島支店によると、県内を走る3月28〜31日の新幹線の利用者は前年同期比で6割強の減少。同社は5月に予定していた新幹線や在来線特急、快速の臨時列車の指定席発売を見送った。高校の休校などもあり、在来線の利用者も大幅に減少した。東日本台風で不通が残る阿武隈急行の担当者は「東日本台風の影響で利用客が減少しており、これ以上の利用客減は痛手」と懸念した。

 県タクシー協会によると、大型クルーズ船で感染者が確認され始めた2月上旬ごろから県内では利用客が減少。福島、郡山両市のタクシー会社に行った調査では、例年の3月の売り上げと比べて昼は3〜4割程度、夜は6割強落ち込んだ。

 1日当たり30台近いタクシーの稼働がある大和自動車交通(福島市)は花見やNHK連続テレビ小説「エール」の放映などで利用者増を期待して定額タクシー制度を導入したが、利用が伸びない。森山昇課長(66)は「東京からの出張などビジネス関係のオーダーはほぼゼロ。この先どうなるか読めず不安が大きくなる」と肩を落とした。

 ◆宅配進出を検討

 都内で感染者が減る兆しは見えない。「東京方面に荷物が運べなくなった場合、どうすればいいのか」。東北運輸局が東北6県の貨物自動車運送事業者を対象に3月に設置した相談窓口に、そんな相談が寄せられた。工業製品などの輸送を担う磐栄運送(いわき市)の村田裕之会長(59)は「3月までは対前年比でほぼ変わらなかったが、4月に入ってから関東地方の荷物が少なくなった」と話す。それでも「いずれ終息するものと思いたい」と従業員の解雇などは考えていないという。「需要はゼロにはならない。宅配関係の分野の需要が増えており、進出も考えている」と対策を練った。

 【運転手「二重の恐怖」 業績、健康どちらも敏感】

 歓迎会でにぎやかなはずの福島市の繁華街はひっそりとし、通りを歩く人もまばら。空席が目立つ飲食店の前に客待ちのタクシーが並ぶ。「人出が少なく、飲み屋のキャンセルも相次ぎ、店を閉めているところもあるくらい。今日は期待できないよ」。代行を含め運転歴30年近いタクシー運転手男性(57)は声を落とした。

 嘆きはいわき市でも。「東京方面から電車で来るサラリーマンの姿を見ない。いつまで続くのか」。JRいわき駅前で乗客を待つ男性(72)は閑散とした街を見つめ、ため息をついた。別の運転手男性(62)は「震災の時でも1、2カ月で乗客の数は戻ったが、今回は難しいのでは」と不安を吐露した。

 ◆車内は密閉空間

 先行きだけに不安を感じているのではない。車内は密閉空間。不特定多数を乗せるため感染リスクを抱える。県内の確認例はないものの、全国的に運転手の感染が確認されている。大和自動車交通(福島市)はマスクの着用やアルコール消毒を呼び掛けるほか、オゾンの除菌機械で車内を除菌。乗車中もなるべく窓を開けて、密閉空間をつくらないようにしているほか、1回の乗車を終えたら換気している。

 対策をしても、いつ、どんな形で感染するか分からない。「給料が半分になった」という郡山市に住む50代の運転手男性は「感染したらと思うと怖い。感染を考えたら休みたいくらいだが、今後の生活が不安」と複雑な思いを打ち明けた。

 配送業者も状況は同じ。主にいわき市から関東方面に工業製品を運ぶ丸浜運輸(いわき市)の運転手(43)はマスクを着用し、小まめに消毒している。出入りする企業の中には検温を求めるところもあり「どこも敏感になっている」と話す。自宅には高齢の両親と子どもがいる。「家族にうつさないために、立ち寄った先で自分が感染しないようにしないと」

 ◆都内滞在「怖い」

 運送業ゼスト福島営業所(本宮市)では、延期になった東京五輪・パラリンピック関連イベントの機材配送や感染拡大が続く都内への引っ越しのキャンセルが相次いだという。業績に影を落とす一方、宝野敬二営業所長は別の悩みも打ち明ける。「都内への配送についてドライバーから『あまり長くいたくない』という声が上がっている。呼ばれたら行くが、感染が怖い」。業績への影響と従業員の感染リスク。二重の恐怖と闘っている。

2020年04月10日 10時00分  
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