【ロンドン=板東和正】新型コロナウイルスの感染が拡大する中、欧州諸国が免疫の有無を調べる抗体検査に相次いで乗り出している。英国は、経済活動を早期に再開させるため抗体検査で免疫が確認された国民に「免疫証明書」を発行し、外出を許可する計画を検討している。ただ、抗体検査に技術的な課題があり、検査が順調に進まないことが懸念されている。

 英国のハンコック保健相は2日、免疫証明書の発行を検討していると発表した。証明書とともに、免疫を獲得していることが一目でわかるリストバンドを提供する構想も明かしたが、まだ実現していない。

 英国ではすでに一部の新型コロナの患者を対象に抗体検査を行っており、ハンコック氏は記者会見で、免疫証明書が発行できれば「免疫を得た人を可能な限り通常の生活に戻せる」と強調。自身も3月下旬に新型コロナに感染し、一時、自主隔離を余儀なくされた同氏は、英BBC放送の番組で「私には免疫が備わっており、再び感染する可能性は低い」と述べた。

 英国が免疫証明書の発行を検討するのは、一刻も早く経済を回復させたいからだ。英政府は感染率が十分に下がっていないとして、先月23日から開始した外出制限を最低でも5月上旬まで延長することを決めた。英予算責任局は4〜6月期の実質国内総生産(GDP)成長率が前期比マイナス35%になる可能性があるとしており、英政府は抗体が確認できた人から外出制限を解除して経済を活性化させたい考えだ。

 ドイツも免疫証明書の発行を検討している。5月には約1万5千人の抗体検査を実施する見通しだ。イタリアも北部ロンバルディア州で抗体検査を開始する。

 ただ、抗体検査の精度には課題があり、その有効性を疑問視する声もある。

 英紙フィナンシャル・タイムズによると、英政府は抗体測定キットを1750万個購入したが、どれも精度が低く、実用化に適さないと判断された。感染症の専門家によると、正確性が低いキットが出回っており、新型コロナに感染したことがないのにも関わらず、抗体があるとの結果が出る例が報告されている。検査の精度が上がるまで時間を要するとみられ、英メディアは英国民が広く検査を受けられるようになるには数カ月かかる可能性があると指摘した。

 また、免疫学を研究する英エディンバラ大のエレノー・ライリー教授は英紙デーリー・ミラーに対し、抗体を獲得しても新型コロナの再感染を確実に防げるかどうかは分からないと指摘し、証明書は国民に「誤った安心感を与える」と危機感をあらわにした。

 免疫証明書の発行で格差が広がることも懸念されている。米法学者のヘンリー・グリーリー氏は米メディアに、免疫証明書を出せば、持っている人だけが交通機関の利用や旅行などが許される社会になると予測し、「(証明書を持たない人にとって)差別にあたる」との見解を示した。

産経ニュース 2020.4.23 17:47
https://www.sankei.com/world/news/200423/wor2004230022-n1.html