乗員106人と運転士が亡くなった尼崎JR脱線事故は25日、発生から15年を迎えた。新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言が出されたため、今年は初めて追悼慰霊式が中止となり、多くの遺族が事故現場への訪問を自粛。節目の日に、自宅や墓前などそれぞれの場所で静かに祈りをささげた。

 JR西日本は当初、現場に整備した追悼施設「祈りの杜」(兵庫県尼崎市久々知3)と、同県伊丹市内のホテルの2会場で追悼慰霊式を開く予定だったが、緊急事態宣言を受けて中止した。

 それでもこの日は早朝から、花束を抱えた数組の遺族らがマスク姿で尼崎市の現場を訪れ、電車が衝突したマンションの前でそっと目を閉じた。

 事故が起きた午前9時18分。毎年、この時刻ごろに現場カーブを通過する快速電車が追悼の警笛を鳴らしていたが、今年から「心穏やかに過ごしたい」という遺族の希望で取りやめになった。

 追悼施設内で献花後に報道機関の代表取材に応じたJR西の長谷川一明社長は「感染防止の観点から式典を行えなかったことは誠に申し訳ない。事故の反省と教訓を基に引き続き、しっかりと安全性の確保と向上に取り組むと改めて誓った」と話した。

 事故で夫を亡くした原口佳代さん(60)は、同県宝塚市内の自宅マンションから、事故発生とほぼ同時刻に現場を通過する車両を見送った。原口さんは「式典がなく、1人で見送るのはやっぱりさみしい。15年たっても、電車に乗るのを引き留めなかった自分を責める気持ちは消えない」と声を震わせた。

 遺族や負傷者らが計画していた関連行事も、今年は新型コロナの影響で軒並み中止された。15年を迎えた追悼の日はかつてない静寂に包まれた。

 負傷者とその家族らでつくる「空色の会」は毎年4月25日、JR尼崎駅などの乗降客に事故の再発防止を願うしおりを手渡しで配っていたが、今年は阪神間の6駅に置く手法に変えた。

 遺族らでつくる「組織罰を実現する会」も、予定していたフォーラムや署名活動の延期を決定。事故から15年という節目を超え、新型コロナの影響の長期化も予想される中、来年以降の追悼行事をはじめとしたさまざまな催しの今後や、事故の一層の風化を懸念する声も出始めている。(前川茂之、井上 駿)

時計2020/4/25 10:25神戸新聞NEXT
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