https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200427-00000024-jij_afp-int
 米国最大の先住民居留地、ナバホ・ネーション(Navajo Nation)で新型コロナウイルスが猛威を振るっている。
感染者が急増する中、かつて入植者が持ち込んだ伝染病によって大勢が犠牲になったこの地で、長年にわたる格差が表面化している。
砂岩の卓上台地(メサ)がそびえ立ち、雄大な渓谷や遺跡を有するナバホ・ネーションは米南西部3州にまたがり、
英スコットランドと同程度の面積に約17万5000人が暮らす。

3月17日に居留地内で新型ウイルス感染が初めて確認されて以降、感染者数はたちまち1282人に膨れ上がった。
人口当たりで比較すると、米国最大の被害が出ているニューヨーク州、ニュージャージー州に次いで感染率が高い。
死者数は今のところ49人にとどまっているが、重症患者が命を落とすケースが今後増加すると予想されている。

ナバホ指導部や専門家は感染拡大の要因として、先住民を対象とする医療体制が慢性的な資金不足に陥っていることや、
貧弱な電話・インターネット環境が情報格差を深刻化させている点を挙げる。
中でも顕著な原因の一つが、感染予防に欠かせないと保健当局が繰り返し強調する「手洗い」のための流水にアクセスできない住民が多いことだ。

■手洗いは「手の届かないぜいたく」
ナバホ・ネーション大統領のジョナサン・ネズ(Jonathan Nez)氏は、
「住民の(最大)3割が水道を利用できず、飲料水や生活用水を得るため20〜30マイル(約32〜48キロ)離れた場所まで水くみに行かなければならない」とAFPに語った。
「世界最強の国である米国のまさにど真ん中のこの地に暮らしながら、ナバホの人々にとって、蛇口をひねって水とせっけんで手を洗うことは手の届かないぜいたくなのだ」
それは、約100年前に米国の水道・衛生インフラが拡充されていった際、先住民居留地の多くが見過ごされたためだと、
水資源関連の支援を行う米NPO「ディグディープ(DigDeep)」は最新の報告書で指摘している。

また、先住民は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化につながるとされている心臓病やぜんそくなどの貧困関連疾患の罹患率が目立って高いと、
アパッチ(Apache)やトホノ・オオダム(Tohono O'odham)といった先住民の治療に当たってきたトゥーソン医療センター(Tucson Medical Center)の
マシュー・ハインツ(Matthew Heinz)医師は言う。
米疾病対策センター(CDC)も、先住民は他の米国人種に比べて糖尿病リスクが特に高いとしている。
糖尿病は新型コロナに感染した場合、命に関わる免疫系の過剰反応を引き起こす要因とみられている。

■果たされなかった約束
ナバホ・ネーションは1868年に結ばれた条約に基づいて設立され、その4年前に強制移住させられていたナバホの人々は父祖の地に帰還した。
米ジョンズ・ホプキンス・センター・フォー・アメリカンインディアン・ヘルス(Johns Hopkins Center for American Indian Health)のアリソン・バーロー(Allison Barlow)氏によれば、
ナバホの人々は他の米先住民と同様、連邦政府の出資で医療と教育が永続的に無償提供されることを条件に、先祖代々の広大な土地を手放したという。
だが、この約束は十分に果たされたとは到底いえない。
たとえば、7万平方キロに及ぶ居留地には、たった12か所しか医療施設が存在しない。
「インディアン保健局(IHS)の医療費支出は現在、一人当たり平均3333ドル(約36万円)だ。これに対し、(高齢者医療保険制度の)メディケア(Medicare)は
一人当たり1万2744ドル(約137万円)、退役軍人向け医療保険制度は同9404ドル(約101万円)を支出している」とバーロー氏は説明する。

米議会は、新型コロナ流行で影響を受けた米先住民の救済に相当額を確保し、近く80億ドル(約8600億円)が拠出される見通しだ。
だが、バーロー氏は「世界で医療機器と医療従事者が不足していることを鑑みると、救済金を必要なことに当てられるかどうかが喫緊の課題だ」と述べた。