毎日、メディアを通して発表される新型コロナウイルスの感染者数。4月18日についに1万人を超えましたが、これが感染者の実数と思っている人はほとんどいないでしょう。感染者が20万人を超えたスペインでも、政府は「実際の感染者はこの10倍はいる」と言っています。また、ノーベル賞受賞者の 本庶佑ほんじょたすく 先生も、日本の感染者数に関して「(発表されている数の)10倍はいるでしょう」とテレビのインタビューで述べていました。

死者数は発表通りか
 では、いま発表されている死者数はどうなのでしょうか。韓国を抜き、日々増加している状況です。先日、全国の警察が3月中旬から4月中旬までの約1か月間に変死などとして扱った遺体のうち、埼玉、東京、神奈川、三重、兵庫5都県の計11人が、新型コロナウイルスに感染していたという報道がありました。11人のうち6人がいた東京では、路上で倒れていた60歳代男性が救急車で病院に運ばれた後死亡。死後検査で陽性が判明しました。

 このような例からわかるのは、検査が行われなかったら、新型コロナによる死者数にカウントされないということです。新型コロナ感染が原因の肺炎死であっても、ほかの肺炎死として処理されているのではないかということです。

 私も医師として、これまで数百通の死亡診断書を書いてきましたが、死因というものは合併症を持っている方の場合、厳格に特定できるものではありません。そのため、診断書には、「直接死因」と「原死因」を書くことになっています。直接死因が「肺炎」、それに関連する持病などとして、原死因には「COPD(慢性 閉塞へいそく 性肺疾患)」などと書きます。肺炎の場合、原因となる菌やウイルスがわかっていれば、「マイコプラズマ肺炎」などと書くことになっています。

 日本では年間約140万人の方が亡くなっています。つまり、140万枚の死亡診断書が書かれるわけですが、直接の死因も厳密には、死体を解剖やCT撮影で調べてみないとわかりません。がんの末期の人が心筋梗塞で亡くなることもありますから。結果として死亡診断書の1割は不正確か、あるいは事情によって、虚偽の可能性があるというのが、医師の常識です。

肺炎の死亡者は増えている
 国立感染症研究所が3月31日に発表した「21大都市インフルエンザ・肺炎死亡報告」によると、東京都では2月下旬の2週間で死亡者が急増しています。このことで、「このなかに新型コロナによる肺炎での死亡者が含まれているのでは?」という疑問の声が上がりました。NHKは、「おはよう日本」で葬儀業者を取材し、「グレーゾーン遺体」の存在を取り上げました。これは、「PCR検査を受ける前に肺炎で死亡し、感染が疑われる中で運ばれる遺体」のことです。いま、都内の葬儀業者はこうした遺体の取り扱いに困っています。もし、陽性なら死後でも感染リスクがあるとされているからです。

火葬場は満杯の状態
 東京23区には九つの火葬場がありますが、老人施設の関係者に聞くと、どの火葬場もいまは満杯の状況だといいます。新型コロナの影響は出ていないでしょうか。現在、都内で新型コロナ死亡者の遺体を受け入れているのは2か所だけです。感染リスクがあるので、職員は完全防御の体制で臨まなければいけません。イタリアでは防護服を着けずに、死後の儀礼をした神父が感染し、死亡した例が報告されています。

 世界一感染者が多いニューヨークでは、市当局が14日に、検査で陽性とは診断されていないが新型コロナウイルスの感染で亡くなったとみられる市民が3778人に上ると発表しました。また、英国でも高齢者施設などの死亡が加えられていないので、実際のコロナ死亡者数は公式発表よりはるかに多いと公表されました。すでに多くの病院で院内感染が起き、救急車がたらい回しになっている東京は、ニューヨークと同じになりつつあります。

必要なのはPCR検査
 政府や自治体がもっと積極的にPCR検査ができる体制を整え、死後の検査も行っていけば、感染実態を把握できるので、外出や飲食店などの営業自粛の要請にさらに説得力が出てくるでしょう。(富家孝 医師)

2020年4月27日
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20200424-OYTET50014/
https://image.yomidr.yomiuri.co.jp/wp-content/uploads/2020/04/20200424-OYTET50014_eye.jpg