長崎市の三菱重工業長崎造船所香焼こうやぎ工場で修繕を終えて停泊中の大型クルーズ船「コスタ・アトランチカ」(乗員623人)の新型コロナウイルス感染者は計148人に上った。
乗員は下船の自粛要請を受けた後も市街地に出ており、市には1日200件以上の相談が寄せられるなど、地元に不安が広がっている。

長崎は三菱重工の創業の地で、中でも国内最大級の造船所の香焼工場はシンボル的な存在だ。周辺には取引のある企業が集まり、住宅街がある。
近くで商店を営む男性(72)は「身近な三菱重工でこんなことが起きるとは思わなかった。
住民の間には『出歩く外国人を見た』という人もいて不安が広がっている。感染が広がらないか心配だ」と話した。

 「感染が怖くて外出できず、買い物に行けない」「なぜクルーズ船を早く離岸させないのか」

長崎市によると、市民からの相談は1日200件を超える。
乗員は日本人1人を除いて外国籍で、市の担当者は「クルーズ船とは無関係の市内に住む外国人を警戒する声もあり、風評被害が出てきている」と話した。
同市はチームを結成し、三菱重工が実施するタクシー利用などの行動歴調査を支援する。

長崎県などは無症状や軽症者は船内で経過観察を続け、重症者のみ医療機関で受け入れる方針。
市にはクルーズ船の離岸を求める声も寄せられているが、出港の見通しは立っていない。

集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」のケースでは、2月3日に横浜港に帰港した後、乗客らは感染拡大を防ぐために船内で隔離された。
検査後、乗員乗客全員の下船が完了したのは3月1日、検疫を終えたのは帰港の約50日後だった。

リスクコミュニケーションに詳しい土田昭司・関西大教授(危機管理心理学)は「住民の不安や恐怖心が解消しなければ、不測の軋轢あつれきを生みかねない。
国、自治体、三菱重工が密に連絡をとり、船の中で起きていることを積極的に説明するべきだ」と指摘した。

◆SNSでも困惑広がる

 「感染が止まらない!とんでもない数に……」。ツイッターなどのSNSでも、不安や困惑が広がっている。

 地元住民とみられる人からは、「恐怖と戦いながら生活しないと」「住んでる街も時間の問題やなあ。コンビニすら怖い」と身近に迫る感染への恐怖をつぶやく声が相次いだ。
また、「長崎は大きい病院がほとんどない」「市中感染までも発生した場合、確実に医療崩壊する」と医療体制への心配も渦巻く。

 横浜港のクルーズ船に続く事態に、「政府や自治体は気を配る必要があったんじゃないの。培養船作ってどうするの」と憤りの声も上がっている。

https://www.yomiuri.co.jp/national/20200426-OYT1T50102/