新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、日々多くの患者と向き合う医療現場では、医師や看護師らが常に感染リスクを抱えながら懸命に職務を果たす。だが、彼らの中には周囲から「ウイルスに感染しているのではないか」などと、いわれのない差別に苦しむ人もいる。新型ウイルスの患者を受け入れる新潟県内の病院に勤める看護師の女性(31)もその1人。「私もいつまで耐えられるか」。女性は言葉を詰まらせた。

 3月下旬のある日、同居する母親から衝撃的な話をされた。

 「あなたの仕事のことで、お母さん、しばらく仕事を休まなければならなくなったの」

 詳しく聞くと、学童保育で働く母親が帰り際に、上司から「お宅の娘は看護師で、ウイルスに感染しているかもしれないでしょう。あなたもしばらく出勤しないでほしい」と言われたという。靴やロッカー、鉛筆1本まで消毒をされた。母親は、ショックを受けて言い返すこともできなかった、と打ち明けた。

 女性も同じような経験をした。町内の回覧板を届けたとき、隣人は指先でつまむようにして受け取り「ウイルスが怖いからこれからは来ないで。町内の会合にも来ないように、ご両親にも伝えなさい」と言い放った。新型ウイルスの患者とは直接関わらない診療科の担当だが「こんな風に思われているのか」と悔し涙が流れた。

 家族に迷惑はかけられないと、自宅を離れ先輩のマンションに身を寄せた。同じような思いをした後輩2人も同居するようになった。後輩の1人は両親から「高齢の祖父母に感染させたらどうするのか。お前が辞めても病院は困らないだろう」と言われた。その後輩の身を案じたのかもしれないが、家出同然で家を飛び出してきたという。

 女性は「患者さんを見捨てて仕事を辞めるなんて考えられないけど、家族も大事だ。医師も看護師も技師も悩みながら病棟に向かっていることを、せめて家族には理解してほしかった」と語る。

 政府や日本赤十字社は、医療従事者に対して誤解や偏見に基づく差別を行わないように求めているが、こうした差別は各地で起きている。「ウイルスへの恐怖と、周囲からの心ない言葉で職を離れる人もいる。私もいつまで耐えられるか。このまま差別が横行すれば医療が崩壊してしまう」と危機感を募らせた。


 ◎県看護協会会長「医療崩壊招く」

 県看護協会の斎藤有子会長(62)は「看護師は周囲から向けられる差別的言動と、自らが感染するリスクの双方に不安を抱えている。こうした状況が続き、休職や退職に追い込まれれば医療崩壊が起きかねない」と警鐘を鳴らす。

 県看護協会には「親が看護師という理由で、子どもが周りに避けられている」などの相談が寄せられているという。

 斎藤会長は「看護師を追い込めば、病院や保健所、介護施設などあらゆる場面で十分なサービスを提供できなくなる。新型ウイルスへの恐怖は分かるが、差別や偏見に基づく心ない言動は控えてもらいたい」と強く求めている。


ソース(2020/04/29 11:10)
https://www.niigata-nippo.co.jp/news/national/20200429540613.html