新型コロナウイルスの感染防止策として、大阪府が検討していたパチンコ店への全国初となる「休業指示」は、全店舗が府の要請に応じて休業したことで見送りとなった。開店を期待して集まった客たちは休業を知って落胆したが、中には他県の店に早速「転戦」する姿も。専門家からは、ギャンブル依存症の視点からの対策を求める声も上がっている。

 堺市堺区で営業を続けていたパチンコ店では30日朝、駐車場の入り口などに5月6日までの休業を告げる紙が張られていた。店には事情を知らない愛好者らがひっきりなしに訪れ、警備員から営業自粛に入ったことを知らされると、がっかりした様子で立ち去っていった。

 唯一の息抜きがパチンコという大阪市の男性(40)は、店名を公表された大阪府枚方市のパチンコ店が休業し、堺の店に流れてきた。「29日は営業していたのに残念。スーパーだって3密(密閉、密集、密接)なのに、パチンコだけ批判するのは差別だ」。憤った男性はすぐにスマートフォンを取り出し、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で仲間と情報交換。他県で営業している店があると知り「早速行きますわ」と言い残して立ち去った。

 同じく他店が休業したため、先週から通い始めたという近所の男性(70)も「コロナは怖いが、パチンコをできないストレスの方が強い」と吐露。負けた時は「店が閉まっていたら良かったのに」と後悔する。「今日も負けたと思って諦めるしかないな」。自分に言い聞かせるように話し、店を後にした。

 堺市の店を含め計3店の営業を府内で続けてきた運営会社は、SNS上で「爆弾を仕掛ける」などと投稿され、従業員らに身の危険を感じ、府からの再三の休業要請も踏まえ店を閉めることにしたという。近くの60代の男性は帰って行く客らを見ながら、「誰もが人の集まる場所が感染源にならないか不安がっている。営業する方も利用する人も、なぜ我慢できないのか」と首をかしげた。

「依存症の相談窓口必要」専門家が指摘
 今回の休業を巡る一連の現象について、専門家からは、パチンコをやめられない人への依存症対策を同時に進めるべきだ、との声も上がる。

 ギャンブル依存症や貧困問題に詳しいNPO「ほっとプラス」の藤田孝典理事は「ストレス解消の手段がパチンコしか無い人が店へ行けなくなると、不満の矛先が家庭内へ向けられる可能性もある」と指摘し、家庭内暴力などの増加を懸念。欧米のカジノなどでは依存症の人向けに自助グループや相談窓口が紹介されているとし「パチンコ店も同様の取り組みを進めるべきだ」と提案した。公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」の田中紀子代表は「パチンコ業界が自分たちで責任を持ち、今は全国の店で営業を自粛すべきだ」と話した。【隈元悠太、柴山雄太】

毎日新聞2020年4月30日 19時03分(最終更新 4月30日 19時03分)
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