新型コロナウイルスの影響でマスクの需要が高まる中、雑貨屋の店先や路上でマスクを売っている光景を目にするようになった。ドラッグストアなどの量販店では品薄が続いているのに、なぜ街角にはマスクがあふれているのか。

中国の業者「売り込み」
 「マスクありますよー」。4月中旬、東京都中野区の中野サンモール商店街。靴屋の店先で店員が呼び込みを始めた。不織布の使い捨てマスクが5枚入りで490円だが、飛ぶように売れていく。約1年前は小売店での平均単価は1枚18円だったので5倍以上。池袋のタピオカ屋の店先では、無造作に置かれた段ボール箱で50枚入り3500円のマスクが売られていた。

 最近になってマスクを取り扱うようになった東京都杉並区の洋服雑貨店の店主、夏目秀人さん(45)は仕入れルートについてこう説明した。「もともと取引のあった問屋から『マスクも卸せる』と打診があった。本業の売り上げは落ちているので、足しになればと思った」

 小売店にマスクを卸している大阪府内のアパレル関連業者は、中国から服飾品の輸入を手がけていたが、3月ごろからマスクも取り扱うことになったという。担当者は「中国の業者からマスクの売り込みを受けた。ドラッグストアなどにも卸そうと思ったが、もともと取引がないからか採用してもらえなかったので、既存の販売ルートで小売店に卸している」と話す。

 全国マスク工業会によると、中国では自動車産業などの異業種もマスク製造に参入し、大増産体制に。しかし3月に中国国内の感染がピークを越えると、余剰分が輸出に回されるようになった。街角にあふれるマスクの多くは、こうしたルートで入ってくるとみられるという。

 では、なぜ量販店では品薄が続いているのか。同会は「価格が影響している」とみる。経済産業省などの調べでは販売用の50枚入りマスクの仕入れ価格は従来1枚5〜7円だったが、現在は35〜50円。従来の相場よりも割高で品質にもばらつきがあるため、仕入れに二の足を踏む量販店が多いのだという。

 経産省などによると、マスクの輸入に要件や規制はなく、新規参入は自由。卸売業者から仕入れて売るのであれば法律で禁止された転売にも当たらない。流通アナリストの渡辺広明さんは「世界的に需要が高まり、中国マスクの輸出先が欧米などに向いていく可能性もある。日本への供給は読めず、値段の高騰も続くだろう」と話している。【五十嵐朋子、井川諒太郎】

毎日新聞2020年5月1日 東京朝刊
https://mainichi.jp/articles/20200501/ddm/041/040/130000c