トンネル工事の影響で、大井川の水量が毎秒2トン減る!?

JR東海が建設するリニア中央新幹線(以下、リニア)は、時速500Kmの走行を可能とし、2027年には東京(品川駅)・名古屋駅を40分で結ぶ予定だ。総工費5兆5000億円の超巨大事業である。

だが、そのトンネル工事に伴い、静岡県では県民の水源である大井川が1秒間に2トン(中下流域の8市2町62万人分の水利権量に匹敵)も減流すると予測されている。

静岡県とすれば、すんなりと工事を認めるわけにはいかない。実際、リニアが通過する1都6県(東京、神奈川、山梨、静岡、長野、岐阜、愛知)のなかで、工事が始まっていないのは静岡県だけである。

どうすれば水問題を解決できるのか。この問題を話し合うために、国土交通省は有識者委員で構成する「専門家会議」を設置した。
だがその人選を巡り、早くも国交省と静岡県との足並みは揃っていない。
というのは、国交省は県が選んだ委員候補者を明確な理由もなく除外したのに、会議だけは「今月下旬には開始する」と明言したからだ。

川勝平太知事は「極めて遺憾。再考を求める」と国交省と対峙する姿勢を示している。

静岡県とJR東海の協議、5年以上続くも県民の不安は払拭されず

リニア計画は2014年10月に国土交通大臣が事業認可したが、他の都県では工事が始まったのに、静岡県は知事が着工を許可しない。冒頭で書いたように、大井川が減流することで県民生活や商工業活動に多大な影響が出るからだ。

2014年以降、静岡県は、県・JR東海・有識者の3者が討議をする「静岡県中央新幹線環境保全連絡会議」(以下、連絡会議)を不定期に開催し、JR東海に「工事で失われる水は全量大井川水系に戻せ」と要求している。

実際、JR東海も少しずつではあるが、どうやってトンネル湧水などを大井川水系に戻すかの案を示してはいる。しかし「具体性に欠ける」として、委員の有識者からは5年にわたって「それでは不十分だ」と評価され続けている。

確かに、もしこのままJR東海が着工してしまえば大井川の水量が減るかもしれない。何よりも、大井川を水源とする多くの県民や商工業者の不安が払拭されることはないことだけは確かだ。

国交省の介入が始まり、立ち消えになった「3者協議会」

すると昨年夏、この膠着状況を打開しようと国交省が乗り出してきた。県の事務方はこう振り返る。

「国交省は、JR東海と静岡県と国交省の3者が話し合う、新たな『3者協議会』を設けたいと提案しました。
そして、行司役としてJR東海を指導したいというのです」

「3者協議会」は「連絡会議」とは別組織。筆者はこの件で2019年10月29日、連絡会議で常にJR東海と真正面から対峙して質問や意見を投げてきた難波喬司副知事にコメントを求めた。
その回答は「連絡会議の有識者からも、国がJR東海を指導してほしいとの声がある。今後は、3者協議会と連絡会議との方向性を調整することで環境保全を図りたい」と、一定の期待感を示したものだった。

ただし、連絡会議に十数人いる有識者のなかでも、この3者協議会を疑問視する委員も複数いる。というよりも、そちらが多数派だ。
その意見は「そもそも、リニア計画を事業認可した管轄部署である国交省に、客観的な行司ができるはずがない」というものだ。

その2日後の10月31日、3者協議会の設置は突然宙に浮いた。川勝知事の記者会見での発言をもとにした、『静岡経済新聞』(11月11日付)の「リニア騒動の真相21 正々堂々のちゃぶ台返し」という記事が以下のように報道している。


10月30日、3者協議会設置に向け、3者が話し合ってきた同意文書案がリークされ、それを静岡第一テレビが放映した。
内容は、県はリニア着工には「JR東海が地元の理解を得ること」を必須条件としたのに、国交省鉄道局の文言は「理解を得ることに努める」との努力目標だったことだ。

これが漏れたことで、翌31日の3者会議で鉄道局は、難波副知事や担当局長を罵倒した。
この、敬愛する部下への侮辱に川勝知事は「絶対に許さない!」と怒った。同時に国交省は、対等ではなく県より上の立場で3者協議を仕切ると判断した。
だからこそ川勝知事は「環境省や農水省にも参加してもらう必要がある」と提案した。これを国交省が呑むはずもなく、3者協議会の設置は事実上なくなったのだ。

https://news.yahoo.co.jp/articles/8c2722b4eaa771aeb5923d85de6a1ef529134193
5/1(金) 15:33配信

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