新型コロナウイルス対策では、日本国憲法が保障する「集会の自由」がどこまで認められるかという論点も浮かぶ。感染拡大を防ぐには緊急事態宣言の下、人が集まる「密」を避けることが社会的に強く求められるためだ。1日のメーデー、3日の憲法記念日は、毎年恒例の集会の中止、縮小が相次ぐ。識者は自粛はやむを得ないと理解を示しつつ、政府主導による行き過ぎた制限が生じることを心配する。

 晴天に恵まれた1日の都内。メーデーに関連した一部の集会やデモ行進は開かれた。だが主催者は、ネット上で「無責任」「テロ行為」といった非難や中傷にさらされた。

 労働団体が首相官邸前で敢行した集会もその一つ。ウイルス対策で政府に対し、休業事業者の補償や医療従事者の感染防護具の十分な支給を訴え、約400人(主催者発表)がこぶしを上げた。主催者側は参加者にマスクを着用し、互いに距離を取って立つことを事前要請していた。だが、一部では人が密集する場面も見られ、「クラスター(感染者集団)が発生したらどうするのか」と厳しい視線を向ける通行人の女性(32)も。

 「反省点は確かにあったが、コロナ禍に苦しむ人が多い今だからこそ意義があった」。主催者側の川原成雄さん(55)は、こう強調した。

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 こうした市民集会の取り扱いを巡り、政府内には一時期、水面下の動きも存在した。

 政府関係者によると4月中旬ごろ、新型コロナウイルス特措法の緊急事態宣言に基づき、都道府県知事に対し、集会中止や開催施設の使用制限を促すことの可否を検討した。国内の集会で集団感染が多発するような事態があったわけではないが、「人と人との接触を8割減らす」目標に基づき、安倍晋三首相周辺が提起した。結局、憲法21条の「集会の自由」を侵害する恐れがあるなどとして、当面は見送られたという。

 政府高官は「政府批判の集会を抑え込むような意図は全くなかったが、憲法との関係で難しいとの意見が多かった」と振り返る。

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 ウイルス感染拡大の阻止という社会的目的と、万人に認められ尊重されるべき集いの自由−。その折り合いをどう付けていくか。

 鹿児島大の小栗実名誉教授(憲法学)は「政府の検討は理解できないわけではないが、注視しなければいけない」とした上で、「感染防止策が万全ならば集会は開催すべきだ」と話す。

 法政大の明戸隆浩特任研究員(社会学)は「感染拡大で市民同士が監視する風潮が広がっている。集会やデモへの中傷はその一例だ。こうした空気を政府が利用し、権利制限に走るとすれば問題だ」と指摘した。 (湯之前八州)

西日本新聞 2020/5/3 6:00
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