(前略)全国の枠組みは崩さず、5月末まで延長するものの、美術館や図書館などの再開を容認する。また、10日後の分析次第では、一部地域は期限を待たず解除する。入り組んだ首相の説明には、感染拡大防止と社会経済活動の両立をはかろうとする苦心がにじんだ。

政権幹部「「延長しても解除しても批判される」
 政府関係者によると、首相は4月下旬までに「全国一律の延長はやむを得ない」との判断を固めていた。全国知事会や日本医師会、専門家らの強い要請は無視できなかった。

 しかし、経済社会への影響も懸念していた。長期政権を支える背骨だった経済の安定は、緊急事態宣言後の休業要請の広がりで大きく損なわれた。

 この1カ月と同じ強い姿勢で宣言を延長すれば、感染防止には効果があっても、社会に不満がたまり、企業の廃業・倒産に歯止めがきかなくなる恐れがある。欧米諸国が行動制限の緩和に歩み出すなかで「日本はなぜ緩和しないのか」との批判も起こり始め、政権は世論に神経をとがらせていた。

 「延長しても解除しても批判される。まず全国一律で延長しつつ、出口に向けた布石を打つことにした」。政権幹部は今回の政府の対応策をこう解説した。

 首相も会見で、「宣言をさらに1カ月続ける判断をしなければならなかったことは断腸の思いだ」と中小企業の苦しみなどに寄り添う姿勢をアピールした。延長の決定と合わせ、新型コロナの治療薬としてレムデシビルの承認手続きを「すみやかに進める」と約束し、アビガンは「今月中の承認をめざしたい」と宣言。企業向けの最大200万円の持続化給付金は、もっとも早い人で8日から入金を始めると強調するなど、「希望」を演出することも忘れなかった。飲食店などを対象にした家賃補助や雇用調整助成金の拡充、苦境のアルバイト学生の支援策を講じることも表明した。

 ただ、東京や大阪などの都市部を中心に、住民の外出自粛や営業自粛などへの制約は多く残る。政府の諮問委員会に出席した神奈川県の黒岩祐治知事は4日、「これまで通りは相当しんどい話。知事に権限はきたが、軍資金もなければ兵糧米もない中で戦えと言われているようなものだ」と批判した。

 首相は会見で一部地域の前倒し解除の可能性にも触れた。しかし、肝心の解除要件は、4日に再び改定した基本的対処方針でも、感染状況や医療提供体制などを踏まえ、「総合的に判断していく」としただけ。「成果が出たにもかかわらず、(休業店舗の従業員らは)もう1カ月間給料なしですよと宣告される。理由と出口戦略を数値で示して欲しい」(福岡市の高島宗一郎市長)などの声もあったが、客観的な数値目標を入れた基準はこの日も示さなかった。

 基準については専門家の意見を交えて検討が続いているが、担当部署がつくった案が「厳しすぎる」(政府関係者)として見解が一致していない。ある専門家会議メンバーは「明確な数字はなお議論が必要だとなった。2週間をめどに示していきたい」。政府高官は「あえて避けた。数字が独り歩きすると怖い」と打ち明けた。

識者「全体把握できないままの予測に疑問」
 緊急事態宣言をめぐる一連の政府の対応を専門家はどうみているか。

 リスクコミュニケーションに詳しい吉川肇子・慶応大教授は、「政府は正確な感染状況を把握していないというが、データに基づいた全体的な現状把握ができないまま、感染者数が減る方向だと評価したり、妥当な将来予測をしたりできるか疑問だ」と話す。感染拡大に応じた対策の変更が具体的に説明されていないと指摘し、「市民は政府の情報に正しいことがどのぐらい入っているのか、難しい判断を強いられている状況だ。だれもが納得できるデータに基づいて感染状況を示し、透明性の高い情報提供に取り組むべきだ」と語る。

 東京電力福島第一原発事故の政府事故調査・検証委員会で委員長を務め、「失敗学」を提唱する畑村洋太郎・東京大名誉教授は、「専門家が最低限必要なことしか言っていないと感じる。納得感がない。やらないと何が起きて、どうなるのかの説明がない」と指摘した。「失敗しながら努力してシステムを作る文化が育っておらず、新しい事態にとても弱い社会になっている。私たちも専門家や政治に対応やきちんとした説明を求めなくなっている。そういう文化そのものを我々自身で変えていく必要がある」とも話した。

デジタル朝日 2020年5月5日 5時00分
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