【ニューヨーク=赤川肇】新型コロナウイルス感染拡大の中心となった米ニューヨーク市で、他人との間隔を6フィート(1.8メートル)以上取るソーシャル・ディスタンス(社会的距離)に違反した疑いで摘発された人の大半を黒人が占める実態が判明した。新型ウイルス問題では、黒人やヒスパニック(中南米系)の感染率の高さがすでに明らかになっているが、感染対策の取り組みを巡っても人種格差が浮上した格好だ。

 社会的距離を巡っては、クオモ州知事が感染対策に欠かせないとして、市警の「積極的な」取り締まりを要請。ただ、警官が摘発中に黒人を殴る動画が会員制交流サイト(SNS)で広がる一方、密集している白人の集団にマスクを手渡す様子もSNSで出回り、これまでも人種間の「不公平」(ウイリアムズ市政監督官)が指摘されてきた。

 市警が八日までに地元メディアに公表した統計では、五月上旬までの六週間に社会的距離の関連で百二十人を逮捕、三百七十四人に出頭を命令。市人口の24%にすぎない黒人が逮捕の68%、出頭命令の51%といずれも過半数を占めた。

 デブラシオ市長は八日の記者会見で見解を問われ「(取り締まり対応の)格差は認めない」と述べる一方、逮捕や出頭命令の総数が「非常に少ない」として、「市警の自制が利いているのは明らか」と擁護した。

 市警の改革を訴える市民団体は「市警は社会的距離策を不法な取り締まりや脅迫、暴力の口実に使っている」と批判。ただ、市警最大の労働組合も、社会的距離の取り締まりという任務について「あいまいな指針と矛盾したメッセージだけを与えられ、現場の警官は自分で何とかするしかない」と否定的で、「公衆の安全という基本使命に集中させるべきだ」と訴えている。

2020年5月10日 朝刊
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