「えふりこぎ(見えっぱり)」とされる秋田県民は、美への意識も高いのだろうか。

 厚生労働省の「衛生行政報告例」(2018年度)などによると、人口1万人当たりの美容所は31・07カ所と全国最多。30カ所を超すのは、他に2県しかない。

 「1次産業が栄えた豊かな土地柄で、女性がぜいたくにおしゃれができる環境があったのではないか」と話すのは、県美容生活衛生同業組合の山本久博理事長(69)。かつては婚礼儀式も豪華で、特に収穫期の秋には客の財布のひもが緩んだという。


 さらに地元に根ざした個人経営が主流で、小規模な店舗が多いことも要因とする。1店当たりの美容師は1・54人で、3人超の東京や神奈川の半分程度にとどまっている。

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 その秋田で、業界の礎を築いたと語り継がれる伝説の美容師がいる。05年に105歳で他界した中村芳子さんだ。

 秋田市出身。東京でマスコミ業界に一時身を置き、1926年に「新しい女性の職業」と市内で美容院を開業した。35年には国産第1号のパーマネントマシンを購入するなど、他に先駆けて先進的な技術を導入した。

 戦後も夜行列車で東京に赴いて技術を学び、県内で開かれる勉強会で他の美容師たちに伝えたという。

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 かつて中村さんの店の従業員だった同市の美容師、横井富士さん(69)は「勉強会では新しい技術やスタイルを惜しみなく教えていた。秋田の女性たちが、自分の技術で店を構えられるようになった」と振り返る。

 人口減少が進み、美容師も高齢化が進む。しかし山本理事長は「秋田美人を生むのは私たちの仕事」と強調。きめ細かなサービス提供は、変わることがない。【川口峻】

メモ
 理容所でも、秋田は人口1万人当たり24・17カ所と全国一だ。県理容生活衛生同業組合の北嶋満雄理事長(75)によると、おしゃれな県民の多さに加え、美容所と同様に手に職を求める女性の意識もあった。県内の理容師にとって、「自宅で店舗を構える自営の方法だった」と語る。

毎日新聞2020年5月17日 09時44分(最終更新 5月17日 09時44分)
https://mainichi.jp/articles/20200517/k00/00m/040/028000c