新型コロナウイルスの感染拡大に伴う大阪府の休業要請は23日午前0時に大幅に解除される。ただ、クラスター(感染者集団)が発生したナイトクラブやライブハウスの解除は見送られ、改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく休業の協力要請は続いている。至近距離での接待や客の密集が懸念されるためだが、大阪の繁華街・北新地などでは家賃などの固定費が重い負担となっており、経営者らは一日も早い営業再開を願っている。

 「このままでは新地が倒れてしまう」。バーを3店経営する東司丘(としおか)興一さん(68)は5月末で1店を閉めることにした。3月から客が激減し、休業要請が出された4月中旬から臨時休業。従業員の給与の半分を支払い続けているほか、高額な家賃が負担となっている。営業が再開されても客足が戻るか分からず、規模の一番大きい店を閉めるしかなかった。

 北新地社交料飲協会の理事長でもある東司丘さんは、「新地の屋台骨のクラブやラウンジがなくなると、付近の飲食店の経営も成り立たなくなり、新地全体が沈んでしまう」と心配する。北新地では約2500店がテナントに入るが、大半が休業中だ。

シングルマザーのホステス「もう限界」
 北新地でスナックを経営する女性は営業再開の時期で悩んでいる。家賃は半額に当たる10万円ほど減額されたが、ビルの管理費やカラオケ機器の納入業者などへの支払いは続き、収入がない現在は先の見通しが立たない。ただ従業員に給料を出す必要もあり、客が来なくても要請解除後には店をすぐ開ける予定だ。

 女性は、感染拡大が収束しても第2波が到来して再び休業要請が出される可能性があると考え、金融機関から想定の倍近い額の融資を受ける。万一の際は、この借入金を取り崩して対応するつもりだ。店でホステスとして働く女性はシングルマザーで子ども2人を育てている。無収入が続く現状に「もう限界です。一日でも早く元に戻ってほしい」と漏らした。

 ある高級クラブは営業再開を見越し、大量の消毒液や飛沫(ひまつ)防止用のフェースシールドを用意した。あらゆる客の要望に応えるためだ。クラブの男性幹部(43)は「知恵を絞って感染対策を実施し、安心できる環境をつくるしかない」と語った。

ライブハウス「長期化すれば経営続かず」
 一方、大阪市内で3店舗のライブハウスを経営する藤井素比古(もとひこ)さん(50)は空欄だらけのスケジュール帳を見つめ、「いつになったら元に戻れるのか。再開できる明確な基準を示してほしい」とため息をついた。

 感染拡大前はロックや歌謡曲のライブ、ダンスやゴスペルのイベントでにぎわっていた。しかし3月、市内にある他のライブハウスでクラスターが確認されて状況が一変。イベント中止が相次ぎ、3月は3公演しか開けなかった。これまで60公演以上がキャンセルされ、府の要請前に休業に追い込まれた。

 市内でバーとダンススタジオも営む藤井さん。計5店舗の家賃と光熱費だけで月約150万円の支払いを迫られるが、全店舗の4月の総売り上げは前年比で9割減に。収入が半減した個人事業主に最大100万円を給付する政府の「持続化給付金」を受け取り、府の休業要請支援金の申請も済ませたが、家賃や従業員の給料の総額には及ばない。

 6月下旬には参加者へのマスク着用を条件にライブイベントの準備を進めているが、休業要請がいつまで続くかが見通せない。藤井さんは「今までは何とか貯金で穴埋めしてやってきたが、要請が長期化すれば経営を続けられない」と頭を抱えた。【鶴見泰寿、田中謙吉、桐野耕一、田畠広景】

毎日新聞2020年5月22日 20時36分(最終更新 5月22日 20時53分)
https://mainichi.jp/articles/20200522/k00/00m/040/210000c