2020/05/24 11:19
https://www.yomiuri.co.jp/national/20200524-OYT1T50070/

 高齢者からキャッシュカードをだまし取り、現金を引き出したとして、詐欺罪と窃盗罪などに問われた仙台市の無職の女(22)が今月、秋田地裁で懲役3年、執行猶予5年の判決を受けた。SNSを通じて「闇バイト」に誘われたという女は、取材に「手軽なSNSを入り口に詐欺グループに使われ、罪を犯してしまった」と後悔を語った。

 判決によると、女は昨年11月、青森、京都、秋田のいずれも80歳代の女性4人の家を訪問し、キャッシュカードをだまし取り、計約900万円を引き出した。

 きっかけは昨年11月1日にツイッターで見つけたメッセージだったという。

 <闇バイト 興味のある方ご連絡下さい>

 仕事の内容は記載されていなかったが、フォローすると、「興味ありますか?」とメッセージが来た。「悪い仕事かもしれないが稼げるかも、と深く考えずにやりとりを始めた」という。

 連絡は秘匿性が高いとされる通信アプリ「テレグラム」を使って行われた。女は指示されるまま、テレグラムをスマートフォンに入れた。本人確認と言われ、身分証明書と顔写真を送信すると、「あなたの担当者」を名乗る男から着信があり、「俺らの組織は警察につかまったことがないし、そもそも高齢者のために手助けする仕事。君みたいな人はたくさんいたし、稼げるよ」と誘われた。

 3日後、最初に行くよう指示されたのは青森県内の女性宅だった。スーツとマスク姿で訪問。インターホンを押すタイミングなどすべての動きは、ワイヤレスイヤホンでつないだ電話で指示を受けた。言われたとおり「銀行協会職員です」と名乗り、キャッシュカードの入った封筒を女性から受け取ると、会釈だけして立ち去った。女性宅には事前に、市役所職員などをかたって「保険料の還付手続きのため新しいカードに交換する必要がある」と連絡が来ていた。

 その後も、繰り返し、キャッシュカードを受け取って現金自動預け払い機(ATM)で現金を引き出し、指定された口座に振り込んだ。「警察につかまるかも」と不安はあったが、「稼げる」という言葉に目がくらんでいたという。

 同11日、秋田市内の女性宅でカードの入った封筒を受け取り、家を離れようとした時、警察官に呼び止められた。イヤホンから「つかまるの早かったな」「もう使えねぇじゃん」と男たちが話す声が聞こえた。その後、電話は途絶えた。

 女は「今思えば詐欺グループにとっては使い捨てでしかなかった。優しい言葉をかけてくる知らない相手を簡単に信じてしまい、お年寄りの老後の資金を奪ってしまった」と悔やんだ。

インターネット問題に詳しい森井昌克・神戸大教授(情報通信工学)の話

 「以前はインターネット掲示板を使った事例が多かったが、最近は幅広いユーザーがいるSNSを使った『闇バイト』の募集が増えている。『高収入』『即日稼げる』などのうたい文句で具体的な内容を記載しておらず、警察も取り締まりにくい。SNSを使い慣れた人は知らない誰かとつながることに抵抗がなく、興味本位で見た募集をあやしいと思っても、言葉巧みに誘われ、手軽に稼げるバイト感覚で犯罪に手を染めてしまうのだろう。SNSで知らない誰かがバイトに誘ってくる場合は警戒するべきだ」

◆テレグラム=情報セキュリティー会社「トレンドマイクロ」によると、ロシア出身の技術者が開発したアプリで、メッセージや電話のやりとりが可能。通信内容や使用者の情報、履歴が暗号化されており、検閲が厳しい国や地域でよく使われている。メッセージを一定期間で自動消去できるため「消えるSNS」とも呼ばれ、近年は犯罪などにも悪用されている。