福井民俗の会会長の金田久璋(ひさあき)さん(76)=美浜町=が同町を中心に信仰されている「狐(きつね)の玉」の論文をまとめた。狐の玉はキツネの毛玉のこと。全国に「稲荷」信仰はあるが、狐の玉をまつることは珍しいという。論文はキツネを神の使いとする伏見稲荷(京都)が来年三月発行する機関紙「朱」にも掲載される予定。金田さんは「狐の玉は美浜の信仰心の厚さを表している」と話す。

 キツネは古くから「神の使い」だった一方、人の精神に取り付く「狐つき」や悪獣の面もあるとされてきた。嶺南では少なくとも明治時代から信仰の対象になったとみられる。

 金田さんが狐の玉を知ったのは約四十年前。町の信仰を調べる中で、阿弥陀寺(美浜町丹生)で当時住職だった大久保松堂さんから紹介された。しばらくそのままにしていたが町史の編さんを通して他にも狐の玉があることを知り、昨夏から本格的に研究に取り組んだ。論文では美浜町の寺や民家にまつられている狐の玉の言い伝えや「狐つき」との関連について記した。

 現在も阿弥陀寺にある直径約五センチの狐の玉の不思議な物語についても紹介している。それによると、一九四五年ごろ美浜町の郷土研究家が松の枝に引っ掛かった狐の玉を拾い、床の間にまつっていたのが始まり。その頃、交友のあった当時の住職松堂さんが「私は拾われた狐の玉だが、時々もまれたりつねられたりして困っている」とお告げを聞き、狐の玉を引き取った。

 美浜では、物事がいい方向に進む、幸運をもたらすなどと信じられている。現住職の大久保光由さん(71)は「いきさつは定かではないが、人によってさまざまな信仰の形がある」と分析する。金田さんによると、狐の玉を手にすることで「狐つき」に合うことはない。「福玉」とも呼ばれ「奇縁を尊ぶ好意的な対応」がみられるという。

 論文は昨年十月、日本民俗学会で発表した。掲載予定の機関紙「朱(あけ)」は、毎年度末に発行されている。金田さんは「狐の玉は非常に神秘的。世の中には人間では克服できないものもある。自然を敬う気持ちを大切にしてほしい」と話した。 (籔下千晶)
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