災害時の不明者や死者の公表を巡り、実名公表か、匿名公表か、自治体で判断が割れている。九州7県では、不明者は条件付きで実名公表する自治体が多い一方、福岡県は原則匿名公表。死者については福岡県が実名公表する立場をとるが、他の自治体は家族らの同意を条件に挙げる。近年多発する広域災害では匿名公表の動きが広がっており、識者は「匿名では災害時の安否確認ができず、後の検証も困難になる」と、実名公表の重要性を訴える。

 災害時の公表について、国は自治体側に基準を示していない。このため、全国の多くの自治体がそれぞれが定めた個人情報保護条例を基に運用しているのが現状だ。ただ、条例には災害時の公表に関する規定はない。多くは「個人の生命や身体、財産の安全を守るために必要な場合」に外部への情報提供を可能とする例外規定を設けており、災害時はこの「例外」に当たるとする識者は多い。

 不明者公表の運用をみると、福岡県は匿名で性別と年齢を公表する。長崎、大分県は家族らの同意を実名公表の条件に。災害発生から72時間経過すると生存率が著しく低下することを踏まえ、熊本、宮崎県は捜索に必要な場合に公表。宮崎県はドメスティックバイオレンス(DV)やストーカー被害者などに配慮し、住民基本台帳の閲覧制限がないことも挙げる。佐賀、鹿児島両県は「捜索状況などを踏まえて判断」とする。

 死者名は、福岡県が「死者は個人情報保護条例の対象外」として実名公表する。佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎5県は家族らの同意を公表条件に。鹿児島県は「総合的に判断」とする。

 九州7県のうち自治体としての「公表基準」を策定、運用しているのは、福岡、宮崎2県。宮崎県はホームページで公開している。

 全国知事会は昨年7月、内閣府に公表基準を定めるように求めたが、内閣府は「国として基準を示す考えはない」との姿勢だ。一方、神奈川県の黒岩祐治知事は3月、災害時の不明者、死者の氏名などの個人情報について速やかに原則公表する方針を表明。県地域防災計画に明記した。

 新潟大の鈴木正朝教授(情報法)は、災害の状況を正確に把握することの重要性を強調する。実名公表により不明者の生存が確認できた例も挙げて「死者、不明者いずれも実名公表を原則として、国が指針を示すなど統一した公表基準を構築することが必要」と指摘。「インターネットを通じた情報の拡散や、被災者に不利益となるような想定外の利用もあり、災害時の公表を、条例の解釈で個別に判断するには限界がある」と提起する。 (御厨尚陽、岡部由佳里)

西日本新聞2020/5/25 6:00
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