https://news.yahoo.co.jp/articles/0fec185845df46982801ef435574ac3486aa992c
 新型コロナウイルス対策でマスク需要が高まる中、編み機メーカー大手、島精機製作所(和歌山市)が立ち上がった。
同社製の編み機を納入しているメーカーを対象に、マスクを簡単に製造できるソフトを開発、そのデータをインターネット上で提供した。
各メーカーが次々ダウンロードして生産に乗り出し、市場へのマスク提供が加速、その動きは納入先の海外メーカーにも広がる。
今後の第2波、第3波の到来に備え、担当者は「マスク不足解消につながれば」と話す。

■快適なマスク
島精機は、一着丸ごと立体的に編み上げることができる独自技術の「ホールガーメント」横編み機で知られる世界的メーカー。
新型コロナの感染が拡大し、マスク不足も深刻化していた3月初旬、「社会の不安を少しでも解消できれば」と、同社製の横編み機で
簡単にマスクを製造できるソフトの開発に乗り出した。

開発にあたって、先端ニット開発グループの木野高志係長(44)が中心となり、まずは社員から理想のマスクについて聞き取り調査をした。
「長時間付けても耳が痛くならず、鼻と口元がすっぽり覆えるマスクがいい」という声が圧倒的に多かったため、
立体形状(3D)で耳にかける部分もゴムを使わず一体で編めるソフトを目指した。

ニット素材のマスクは本来、不織布などの医療用マスクと異なり、ウイルスを遮断する機能はないが、せきなどによる飛(ひ)沫(まつ)の拡散を防ぐ目的でニーズはあると判断。
口元部分を二重ポケット構造にし、市販の抗菌ガーゼや不織布を挟めば予防効果を高められるように工夫した。

3月19日、国内外で1万台以上を売り上げた同社製横編み機に対応したデータとして、顧客専用サイトで提供した。
このデータを使えば、1台の横編み機が約9分で1枚を編み上げ、1日約160枚の生産が可能という。

■時間短縮
4月下旬、靴下製造の町工場が軒を連ねる奈良県広陵町で、靴下メーカー「サントウニット」が島精機の公開データを活用し、マスク生産を始めた。
その1カ月前、同町は新型コロナ対策で全町民約3万5千人にニット素材マスクの無償配布を決定。
サントウニットなど町内の約10社に生産を委託していた。
「自社でマスク生産のデータを開発すれば時間がかかり、改良の必要もある。島精機のデータを活用すれば、すぐ仕上がり、メリットは大きい」と、
創業約40年の歴史の中でマスク生産は初めてだったサントウニットの山本聖二社長(43)は語る。
実際、綿糸で編まれたマスクの仕上がりは柔らかくきめ細やかで、「肌荒れを気にする女性にも最適」と満足そうだ。

■世界でも活用進む
島精機がデータを公開した時期は、新型コロナウイルスの感染拡大で世界的にマスク不足が深刻化した時期とも重なったため、反響も大きく、
5月15日現在、337件ダウンロードされている。
235件は国内から、残りは米国や英国、イタリア、ニュージーランドなど海外からだ。

同社も、地元・和歌山県からの依頼でマスク約8千枚を製造。
早ければ5月末から、小中学校を中心に配布を始める。
「これまで日常生活でマスクを着用する習慣のなかった海外の国々でも、今後は予防対策としてマスクが定着するかもしれない」と木野さん。
「今後も、形状を進化させたデータの開発などで社会貢献できれば」と意欲をみせる。

世界規模で感染拡大し、経済も停滞させた新型コロナウイルスの影響は、和歌山が誇る「超優良企業」とされる島精機製作所にも及んでいる。
島精機が5月13日に発表した令和2年3月期の連結決算は最終損益が84億円の赤字で、平成2年の上場以来、最大の赤字となった。
主力商品は横編み機で、通常はアパレル業界が春夏ものの新作に力を入れる1〜3月期が受注の繁盛期だが、今期は新型コロナウイルスの感染拡大期と重なった。

同社によると、アパレル業界が衣類販売の先行きを懸念して設備投資を控えたことや、欧州の高級ブランドが相次いでファッションショーを自粛したことなどが影響した。
新型コロナウイルスで経営を取り巻く環境は依然厳しいが、担当者は
「上場企業として、今回のマスクのデータ提供のように社会貢献は果たしつつ、編み機販売の“一本足打法”から脱却する新たな収益源の確保も模索したい」と打開を目指す。