サクランボ狩りのシーズンを控え、山形県内の観光果樹園が新型コロナウイルスへの対応に苦慮している。主要産地を中心に開園見送りが広がる中、もぎ取り体験分の収穫を自ら担う必要があるため、苦境にある旅館従業員らに依頼するケースも出ている。ほかの果物でも同様の課題に直面することが予想されるとして、県の一体的な支援を求める声が出ている。

 サクランボ狩りは例年6月に本格化する。天童市の王将果樹園を運営する農業生産法人「やまがたさくらんぼファーム」は今季の受け入れ自粛を決定。約2万人の手摘み分を含めた収穫作業が必要になったため、天童温泉の旅館経営者でつくる観光振興会社「DMC天童温泉」(天童市)に依頼して6人の派遣を受ける。

 6人はいずれも旅館従業員。普段は調理や接客などを担当する。新型コロナの影響で旅館が営業自粛を強いられ、いずれも自宅待機中だった。

 さくらんぼファームは通信販売にも注力しており、最盛期に向けて派遣を受ける人数を増やす。矢萩美智(よしとも)社長(44)は「互いのピンチを次の好機につなげたい」と話す。

 県内のサクランボ狩りの客は年約50万人。その8割近くを集める東根、寒河江両市でも、観光果樹園団体がそれぞれ今季の開園見送りを決めた。東根市の25の果樹園が加盟する市観光物産協会の今野征(まさる)主査(46)は「県外客が8割以上を占め、感染対策の徹底が難しい」と説明する。通販やふるさと納税返礼品用に力を入れるという。

 寒河江市は、果樹園が雇用した収穫作業員の賃金の一部を補助する。地元農協の人材紹介制度を活用し、新型コロナの影響で休業するなどしている飲食店従業員らの暮らしの安定も併せて図る考えだ。

 果樹園の訪問客は周辺での飲食、宿泊を伴うため、地域経済への影響も大きい。例年2万〜3万人を集客する上山市の果樹園は6月前半に受け入れを始める方針。同市の果樹園団体が、密集や密接などを避けるガイドラインを作って対応する。

 県内には、モモやブドウ、リンゴなどの収穫体験の観光客も訪れる。農業関係者らの間には、感染防止の統一マニュアル作成、継続的な経営支援策を県に要望する動きもある。

河北新報 2020年06月01日 月曜日
https://sp.kahoku.co.jp/tohokunews/202006/20200601_52011.html